350mlの缶ビールと真夜中の散歩
夜が来ると余計なことを考えてしまう
図太く生きているように思われがちだけど実際そんなことはなくて
別に特段嫌なことがあったわけでもないし
友達に悩んでるわけでもない
でも、「今夜は外へ出ないとダメになってしまう気がする」
そんな衝動にかられた時、僕はいつも手ぶらで出かける
街は半分寝てて、見慣れた道が今夜は別の場所みたい
やってはいけないことをやってる気がして、なぜか少しだけ高揚する
時計の針は0時を指してる
きのこ帝国の「クロノスタシス」の歌詞みたいだなって思った
コンビニエンスストアで350mlの缶ビール買って僕の夜の散歩が始まる
コンビニへ入るとやけにテンションの高い男子大学生三人組がワイワイ相談しながらお酒を選んでる
「今から友達の家で宅飲みでもするのかな」
なんて思いながら自分は350mlの缶ビールを手に取ってレジに持ってく。
「袋、いりますか?」
「あっこのままで大丈夫です」
コンビニを出て、手のひらに心地よい冷たさを感じながら、350mlの相棒を手に入れた僕は鴨川へ向かう
誰も居ないしちょっとくらい良いか、と窮屈なマスクを取ると夏の湿気をまとった風が頬を撫でる
そういや学生時代はロング缶を馬鹿みたいに開けて大騒ぎしたことがあったな
今より貧乏だけど楽しかったな
大学生って無敵だったな
なんて色々思い出していたら目的地へ到着
昼間はカップルで賑わう鴨川も、この時間はランニングしてる人たちや自分同様散歩してる人がちらほらいるだけ
一人にはなりたいけど孤独になりたくない時には最適の場所
僕の特等席は少し歳上のお兄さんが座ってたので、特等席から離れた鴨川沿いのベンチに腰掛けて少しぬるくなってしまった缶を開ける
ふと空を見ると飛行機の小さな光が南へ向かっている
遠くでバイクの音が聞こえる
空車のタクシーのライトが鈍色の水面に反射してキラキラと輝く
自分は止まっていても周りはどんどん動いてく
社会人になってから色々なことが一度に起きてしまって、心と身体がびっくりしているのかもしれない
そういえば最近忙しくて親にもあまりLINE出来ていなかった
今送信すると寝ている両親を起こしてしまうので、明日送る文面を頭の中で組み立てる
出来るだけさりげなく、色々考えた結果、
「ボーナス出たし、またご飯でも行こう」だった
多分これで良い気がする
ふと見渡すと特等席に座ってたお兄さんはもう居なくなってた
そろそろ僕も帰ろうかな
時計の針は1時過ぎを指してる
一瞬、秒針が止まって見えたけど多分僕の気のせいだろう
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