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犬の介護
昔、飼ってた犬が寝たきりになった。
名前はキキ。
何かの病気で前足が立たなくなって認知症もあるらしくて、オムツをしても自分で外してしまうから、トイレのたびに朝でも夜中でもワンワンないて、外へ連れ出さないといけなかった。
それでみんな疲れきっていたころ、わたしが東京から実家に帰って来たから、無職だったわたしが介護をすることになった。
キキは5キロほどの小さめな犬だったけど、外へ出すときは、前足を手で支えるために中腰にならないといけなくて腰が痛くなるし、夜中でもワンワンなくから、その度に起きて外へ連れ出すのは、なかなか大変だった。
「なんでこんなことしないといけないんだ!」って、正直腹が立った。早く解放されたいって思ってた。
*****
ある日、わたしが買い物へ行って帰ってきたら、キキがワンワンないていた。
ゲージを見ると、敷物と床のあいだに入り込んでしまって動けなくなっていた。
キキは前足は動かないけど後ろ足は動くので、後ろ足だけで立とうとして、ゲージの中をグルグル回ることがよくあった。
この時も、グルグル回ってるうちに、たまたま捲れていた敷物の下に入り込んでしまって、出てこられなくなったらしい。
急いでキキを出してあげると、ハアハアいって苦しそうにしていた。
「キキは散歩が好きだったから、歩きたくて仕方ないんだろうな。もう歩けないんだけど、がんばれば歩けるようになるって思ってるのかもしれない」
そう思うと悲しくていたたまれなくなって、キキをギューって抱きしめた。
*****
キキは、それからしばらくして亡くなった。
16才だった。
最期まで、ご飯をたくさん食べて、後ろ足だけで立とうとしてゲージをグルグル回っていた。
人間だったら、絶望してあきらめていたかもしれないのに、動物は最期まであきらめずに、生きることだけ考えるんだと思った。
「生きるとは、こういうことなんだ」って、キキに見せてもらったような気がした。
介護って、与えてばかりだと思ってたけど、実は一番大切なことを教えてもらってて、与えられてることの方が多いんじゃないかと思った。