好きnote 44 「風の谷のナウシカ」
風の谷のナウシカが好きだ。小学生の頃に初めて金曜ロードショーで観て夢中になった。しばらくはナウシカのことばかり考えて、お小遣いでアニメージュ買ったり、ナウシカの絵ばかり描いていて、当時父が毎月買い与えてくれていた「小学五年生」という雑誌にハガキにナウシカの絵を描いて送ったら掲載されたりもした。
中学生以降はナウシカ熱は収まっていたが、西表島で原作の「風の谷のナウシカ」を読んだ。原作の連載当時のアニメージュを買っていたので、原作漫画があることは知っていたが当時の私にはまったく意味が分からず、絵もグロくて読む気にならなかった。「コレがあのナウシカなのか?」と子どもながらに思っていた。
原作にあまり良いイメージがなかったけど、住み込みで働いていた民宿にあったので何の気なしに読んだら夢中になった。それなりに人生経験を重ねてきたのでグロい描写にも免疫がある。グロい描写は描きたいことを伝えるには避けて通れないから描いてるのだと理解できた。そうして読み進めた末に「風の谷のナウシカ」は、私のバイブルのひとつになった。ある時期は私の理想の男性像や好きな男性のタイプを「原作のナウシカに出てくるセルム」と答えていたくらいだ。
何でまた急に「風の谷のナウシカ」が好きなことを思い出したかというと、先日やっと「君たちはどう生きるか」を観たからだ。
誰かの夢の中に迷い込んだような感じで、無意識領域、潜在意識下に実はみんなつながっている部分でもあるような感覚。
個人的にはラスト近くの大叔父様とインコ大王、マキトとヒミの重要なシーンが印象的で、その場面が原作の「風の谷のナウシカ」のラストシーンを彷彿とさせた。私のナウシカ好きはあのラストシーンにある。
そんなナウシカのセリフに痺れる。
宮崎駿監督の最後の作品になるであろう「君たちはどう生きるか」は、最初の宮崎駿監督の「ナウシカ」の映画では描き切れなかった部分を出せたのではなかろうか。
墓の主、石、新しい王の座や権力を狙う者。純粋で善なるものだけの世界に作り変えようとする計画。どんな世界でも生きる覚悟。原作のナウシカより、「君たちはどう生きるか」の方がグロくなくて観やすいけど、その分わかりにくいかも知れない。現に映画が終わった後に憮然とした顔で席を立つカップルや、「何なん? コレ」みたいな会話をしながら映画館を出て行く人たちもいた。
私たちはいつの間にか自分で考えることを疎かにしてきてしまった。真面目な人をバカにして、明るく元気にみんなで騒ぐような風潮を良しとする流れもあったし、答や正解を求めてすぐにネットで調べたり、長い動画が見れずに、簡単に分かりやすく理解することを求める風潮がある。書店やネットには、たくさんの誰かの成功法の本が並ぶ。だけど、それでは本当の答えには辿り着かないのだ。それは誰かが成功した方法で、自分の成功とは違う。そもそも成功とはいったい何なんだ。自分にとっての成功って何なんだろうか?
誰かの答えや誰かが意図的に提示する答えを簡単に自分に当てはめてはいけない。簡単でわかりやすいことが決していい訳ではないのだ。簡単にお金が手に入る方法や簡単に成功する方法を信じるなとは言わないが、自分で見極めて自分で選んでほしい。
どんなに時間がかかっても、どんなに自分の手を汚しても、自分の手足や身体を使いながら自分の頭で考え、自分の心で選んだことこそが尊い。人から見たらバカみたいに見えたり、わけわからんように見えても、その人が自分で心の底から出した答えなら、それはよくできた模倣や受け売りよりも素晴らしいと私は思う。
「君たちはどう生きるか」も「風の谷のナウシカ」も、宮崎駿監督の全身全霊、今を生きる人たちに向けたメッセージ。
理解できるかとか、正解とか、真意を汲み取るとか、ではなく、「あなたはどう感じ、どう生きていくのか?」という問い。これから、どんな時代や、どんな困難が降りかかる出来事が起きても「自分はこう生きる」という答えを、自分で掴むこと。その為には一見理解できないようなことも考え続けることが大切なのだと思う。
アニメージュ連載当時にまったく分からなくて、グロくて気持ち悪いとさえ思った「風の谷のナウシカ」が、今では私のバイブルのひとつになっている。原作のナウシカは、映画のナウシカのような完全無欠なヒロインじゃない。弱さもズルさもあるし怯えたりもする。それでも切り拓く。原作のナウシカでは、ナウシカよりもクシャナの方が強くてカッコいい。
一見わからない。すぐにはわからない。それでも知ろうとする。簡単にわかったような気になってはいけない。ただ感じる。たまに忘れる。忘れていた頃にふと気づく。思い出す。そんなことが大事なんじゃないかと思う。
悪意がなく純粋で善意に溢れた人しか居ない世界ではなく、悪意も善意もあるどんなに汚れた世界だとしても、その世界を生きることを自分で選んだナウシカ、マヒト、ヒミ。それが宮崎駿監督の答え。
では、君たちはどう生きるか?
ナウシカが好きというより、原作の「風の谷ナウシカ」と映画の「君たちはどう生きるか」のラストシーンや宮崎駿監督が伝えたかった核の部分が、私は好きだという話になってた。それでも言おう。私は「風の谷のナウシカ」が好きだ。