閉した貝が口を開いて唄になる
何故だかわからないが、突然うたが生まれ始めた。ふと浮かんだ言葉を書きとめ、好きなコードを弾いていたら、こんな簡単にうたってできるの? と驚くくらいのスピードで完成してしまった。
きっかけはある。友人からもらった「海獣の子供」を読んだ際に(どんとの「おめでとう」は海の誕生祭をうたっているんだ!)という閃きがあった。
いきなりどんととか「おめでとう」とか言い出して意味がわからない方はこちらをお読みください。
私がギターを弾くきっかけになったのは、どんとのソロ時代の名盤「DEEP SOUTH」に収録されている「おめでとう」といううたに撃ち抜かれ、「あのうたを私もうたってみたい!」と強く願ったから。「おめでとう」を最初に聴いたのは、どんと本人のうたでもCDでもなく、松井ろくろうさんがどんと院BANDでうたった「おめでとう」だった。聴いていたら、何故か突然「生きててよかった!」「生まれてきてよかった!」という想いが溢れ号泣してしまったのだ。それは初めての体験で、自分でも何で泣いてるのかわからなくて、この感動の謎を知りたくて「おめでとう」をうたいたいと強く思った。
「おめでとう」は人間目線ですべての生きとし生けるものに対する誕生や生命への賛歌だと思っていた。しかし「海獣の子供」を読んで、「もしかしたらどんとは、海の中で起こる誕生祭をうたにしたのかもしれない。人から生命へ捧げるなんてもんじゃなく、すべての生命がうたう海の中の誕生祭をうたにしたのではないか?」とハッとした。
そう私が感じただけで、実際の所はわからない。でも沖縄に移住したどんとが、沖縄の地や海でそんなことを感じていたんじゃないかなぁと思った。これから「おめでとう」をうたう時は、私も海の中の生命のひとつの心持ちでうたっていきたいなぁなどと感じたその日の夜、突然うたが生まれ始めた。
この夏、いろいろなことが起こり過ぎて、人に会ったり身動き取れないけど内面の想いや感情は忙しかった。身動き取れないからこそ、その想いや感情の波や揺れをじっくりと感じ、受け止めることができたとも言える。足の怪我で休まないままでいたら「そんなこと感じてる暇はない!」と気づかないでいただろう。しかしジタバタしたくても左足靭帯損傷ではジタバタできない。思わぬ出来事の連続の中で、「どうにかしなきゃ!」とか「私が何とかしなきゃ!」と焦ってもできないのだ。そうなるともう脱力して流れに任せるしかなく、思考を放置して委ねることにした。
そんな風に脱力したら、今まで振り返れなかったことや、感じないようにしていたこと、忘れていたように感じていたことを思い出した。湧き上がる想いや感情を前に、自分が本当はどう感じていたのかを誤魔化さずに見つめ受け入れていけた、ある意味贅沢な日々。
自分の中にあったネガティブな感情、不安や恐れもしっかり味わった。子どもの頃に諦めて隠した想いも見つけた。そうしてやっと「じゃあ私はどうしたい? どう生きたい?」とか、「何を信じていきたい?」ということに想いを巡らせて、思い浮かんだことを書いていたら何となく詩になった。目が覚める前にボンヤリ浮かんできたことなんかも詩になった。
何となく軽い気持ちで好きな曲のコード進行を弾き、その詩を口にしてみるとうたになった。驚いた。何というか自分で作ったというよりも私を通して出てきた感じ。そんな感じで1日で3曲うたが生まれ、翌日も1曲できた。今までオリジナル曲を作ってみようとしてもできなかったのは一体何だったんだ!? と思うくらいスルスルうたができた。
今まで「あなたのうたを聴きたい」とか「本当は思ってることあるでしょ? それをうたにするんだよ」とか「SNSの投稿に書いたエピソードをうたにしたら?」と言われてもできる気がしなかった。それに絶対に人の曲をパクらないようにコード進行も完全にオリジナルじゃなきゃいけないと思っていた。「そんな難しいことできない」と思っていたんだが、いろんな曲を弾いていくとコード進行が似ているものや、意外と簡単なコードの名曲もあって、何気なく好きなコードを弾いて口を開いたらできてしまった。
その時、唄という字の意味が何となくわかった。閉した貝が口を開いて唄になる。私のうたは、歌ではなく唄なのだ。
4曲も生まれたので、調子に乗って自分の個人的な願いを作ってみようと思ったら、それはできなかった。私の場合は「自分で作ろう!」とか「やろう」とするより、脱力して「自分」を手放さないとできないようだ。そして、出来上がった曲に対しても「自分のうた」という執着は捨てて関わるのがいいみたいだ。良い悪いもなく、判断せず、生まれたものをひたすら自由にさせる。そのうたを自由に泳がせていく。そこから観える景色を眺める。そんな風にうたと関わりたい。
生まれた唄をひたすらうたってみてからギターとうたの先生:Isaさんに聴いてもらい、ブラッシュアップして人前で口を開けていきたい。
唄が生まれて、やっとこの坂口恭平さんの言葉の意味がわかった気がする。