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HSPのためのウェルビーイング:WEIRD社会でも見つかる私らしい幸せ
ウェルビーイングは、単なる健康や幸せを超えた包括的な概念です。身体的、精神的、社会的な良好な状態に加え、人生における充実感や満足感を含む、総合的な幸福の状態を意味します。
自己受容はこのウェルビーイングと密接に関連しています。自己受容が十分にできないと、相手の反応を見て自分の価値を測るという過度な承認欲求として表れることがあります。
例えば人前に立つことが苦手なのに、観客の前でアイドルのように求められるキャラクターを演じることで、自分を満たす人もいるのではないでしょうか。
私自身も仕事において、クライアントの意向や会社の求める結果に過度に集中するあまり、自分自身をおろそかにしていた経験があります。
特にHSPは、繊細な特性ゆえに他者からの反応や評価に敏感になりやすく、承認欲求が強く表れる傾向があります。しかし、自分の感受性を理解し受け入れることで、より健全な形で承認欲求と向き合い適度なバランスを保つことができるようになります。
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このように、自己受容はHSPにとって特に重要なウェルビーイングの要素です。自分の特性を理解し受け入れることが、全体的な幸福感と生活の質の向上につながるのです。
ビジネスの世界では結果や評価が重視されますが、それに過度にとらわれると自己受容が難しくなります。
では、HSPはこのような生きづらさを感じる社会の中で、どのようにすれば自己受容ができるのでしょうか。この記事では、ウェルビーイングに関する研究を紹介しながら、そのヒントを探っていきます。
A qualitative exploration of individual differences in wellbeing for highly sensitive individuals
(Becky A. Black, Margaret L. Kern, 2020)
(著:Bergamot)
ウェルビーイングと文化
ウェルビーイングは、遺伝子、幼少期の経験、性格、遭遇する状況、選択する行動、社会環境など、多くの要因が複雑に絡み合って形作られています。さらに、文化もこれらの要因と密接に関連し、重要な影響を与えています。文化は知識のネットワークとして機能し、社会の価値観や行動規範を生み出し、維持する役割を担っています。
特にWEIRD(Western:西洋的、Educated:教育水準が高い、Industrialized:産業化された、Rich:豊かな、Democratic:民主的な)社会では、その社会規範や期待が私たちの個人的なアイデンティティや経験を大きく形作っています。本論文はオーストラリアでの調査・分析に基づいていますが、この傾向は日本でも同様に見られます。
ニュースでは政治を見ると顕著ですが、ビジネスシーンでも外向的で活発な表現力を持つ人々が注目され重用される一方で、内向的で静かな表現を好む人々が軽視される傾向があります。
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このような外向性を重視するWEIRD社会のウェルビーイング観は、HSPを含む多くの人々の特性や生き方と適合しないことから自己受容が難しく、そのギャップが個人のウェルビーイングを損なう要因となることがあります。実際にHSPに見られる敏感さや神経症傾向は、個人をさまざまな不健康な結果に導く否定的な特徴として描かれることが多いです。
HSPの幸福感
社会では、臨場感あふれるライブ観戦や、ビジネスでの目標達成や成功など、社交的で活発な場面での(ドキドキやワクワクするような)高揚感が幸福の象徴とされがちです。
しかし、そのような刺激的な環境を好まないHSPは、異なる形での幸福感を見出すことができるのでしょうか。
本研究ではHSPのように高い感受性の人の幸福感は、一般的に想定される高揚感とは大きく異なり、以下の点が明らかになりました。
WEIRD文化で典型的な高覚醒の感情ではなく、HSPのように高感受性の人は、穏やかさ、リラックス、心の平安といった低強度のポジティブな感情を重視
感情的、認知的、身体的、精神的、社会的、関係的な側面を含む多次元的にわたるバランスや調和としてウェルビーイングを捉える傾向
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HSPにとってのウェルビーイングを可能とするには?
必ずしもHSPは社交性が苦手なわけではなく、自分を演じたり経験を重ねたりすることで、社会との関わりを上手くコントロールできる人もいるかと思います。
そのような人でも、いつも社交的でいることは無理をしたり、我慢して付き合うことになるでしょう。
人に流されず、気を遣いすぎないようにするためにも、以下の点を心がけることが大切です。
1.感情コントロールと自己認識からの自己受容
感情面
ネガティブな感情への対処を時間をかけて行う
自己対話を通じて「自己の過ちを許す」や「セルフコンパッション」を持つ
認知面
自己認識と自己受容の重要性を理解する
自分の健康状態やニーズを把握し、適切に対応する
例:「自分に合った対処法を知っている」「ストレスの身体的兆候を察知できる」
自己受容の利点として、自分をコントロールするだけでなく、自分の限界を認めることや必要に応じて助けを求めることもウェルビーイングに寄与します。
2.行動によるウェルビーイングと周囲との関わり方
行動面
規則的な身体的、精神的活動、自己ケアの実施
健康的な食事、毎日の運動、ヨガや散歩など
ストレスを感じた時に、瞑想や自然への散策などの活動を取り入れる
社会的支援面
少数の友人やコミュニティとの密接な関係を築く
社交と孤独な時間とのバランスを取る
ウェルビーイングを高めない、自分の気分や人格に悪影響のある人間関係を手放す
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静かな孤独な時間も大切ですし、人生での意味を感じることや見出すこと(宗教、仕事、他人を助けることや親しい関係などから)、また楽観主義や希望があることがウェルビーイングに寄与します。
3.ウェルビーイングの障害
障害となりうる要因
身体的健康問題が影響する
さまざまな要求に「ノー」と言うことの難しさ
同時進行タスクが多くあるような、過剰な負担がストレスを引き起こす
HSP特有の、他人への強い感情反応や共感能力が疲労を引き起こし、ウェルビーイングの低下に影響
ストレス管理として、深みにはまらないようにペース調整をしたり、相手に「ノー」を伝えること、また、ストレスを生産的な行動に変えるなどの方法を実施することは効果があります。
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HSPの穏やかで調和のとれたウェルビーイング
HSPの人にとって、このように幸福感を促進する要因はさまざまであり、必ずしも強い感情の高まりや熱意、喜びを感じる必要はありません。
幸福感には、異なる要素のバランスや調和、自然とのつながり、穏やかなポジティブな感情、自己認識、自己受容、楽観主義や希望などが関係しています。
また、自分の良い面と悪い面の両方を認識し、受け入れることは自己受容に不可欠です。セルフコンパッションを育むことは、幸福感や生活満足度の向上に良い影響を与えます。
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ビジネスリーダーの自己受容
社会における関係性において、部下や生徒、子どもは、上司や親が良くない状態にあると、自分の環境の限界を感じ、より上のポジションや良い状態を目指すことを諦めてしまう可能性があります。
自己受容ができず、自分に不満を抱えていると、仕事の場面で後輩から「この人には憧れない。この環境で頑張っても、将来に期待できない」と思われることもあるでしょう。
とはいえ、ビジネスリーダーの世代の人は、若い世代からの評価が必要以上にプレッシャーになり、重荷だと感じた経験が私と同様にあるのではないでしょうか。
高みを目指すことと、自己受容として今あるものに目を向けて満足することは、ときには相容れないこともありますが、成長しながらも充実感を持って今を楽しむためには、どちらも欠かせません。
理想を持ちながらも、今の自分や環境を受け入れ、バランスの取れたウェルビーイングを意識して毎日を過ごせるようにしましょう。
明日から始められる、HSPのためのウェルビーイング実践ガイド
セルフコンパッションの実践
自己対話を通じて、自分に優しく接することを心がけましょう。例えば、「これは一時的なものだ」「大丈夫」と自分に言い聞かせることです。
リフレクションの時間を持つ
毎日少しの時間を取って、自分の感情や反応を振り返り、ストレスや不安の原因を見つけることが大切です。
自然とのつながりを持つ
散歩をしたり、自然の中でリラックスする時間を持つことで、心の安定を図りましょう。
自分のニーズに応じた休息を取る
疲れを感じた時には無理をせず、適度に休息を取ることが重要です。
瞑想や深呼吸の練習
瞑想や深呼吸の練習を日常に取り入れ、心を落ち着かせる時間を持ちましょう。
聴き流してゆったりとマイペースを取り戻すNSDR
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