アディクションに対するマインドフルネス(MBRP)の可能性について~問題の根本を扱う〜
こんにちは。今日は、アメリカ版Huff Postに掲載されたMBRP(アディクションに対するマインドフルネスプログラム:以下MBRP)がいかに依存症支援に有効かについての記事を意訳・抜粋しながらご紹介していきたい。
アディクション・依存症への新しいアプローチであるMBRP
新しい瞑想に関する研究が示すところによると、マインドフルネスに基づいた治療は、うつ病、自己免疫疾患、PTSD、不安、ストレスなどに有効であることが示されている。
アメリカでは、約2400万人存在するアルコール・薬物依存症者に対してもマインドフルネスは効果があることが示されている。(日本では、アルコール推計107万人、ギャンブル536万人と言われている。)
MBRPは、ワシントン大学で開発された治療法である。MBRPはアディクションの根っこの問題である再発の予測因子の2つを対象にして取り組んでいる。
その2つとは、「陰性感情」と「渇望」である。
陰性感情とは、依存行動の引き金となるネガティブな感情のことであり、怒り・寂しさ・悲しみなどのことをいう。渇望とは、アディクションに対する強烈な欲求のことである。
アメリカでは、すでにMBRPを用いた治療が、治療施設、刑務所、退役軍人のセンターなどで行われている。
この治療法は、歴史が浅く、より多くの研究が必要であるが、その結果は希望がもてる。
伝統的な12ステップ(アメリカや日本でも主流の自助グループによる再発予防。アルコホーリクス・アノニマス:AAなどがある)の再発予防と比べて、MBRPの参加者は、再発のリスクを下げると報告されている(Bowen et al, 2014, JAMA)。そして再発した人でも、6ヶ月、1ヶ月のフォローアップでの再発期間が短いことが示されている。
脳神経学的にみた有効性も
脳神経科学の分野でも、マインドフルネスのトレーニングが、渇望・否定的感情・再発に関係ある脳の部位に影響を与えることが示されている。
MBRPを作ったBowen博士にインタビュー
Huff postの記者がBowenにインタビューしたわかったこと。「なぜアディクションにマインドフルネスが効果があるのか」「なぜ多くの研究者がMBRPの研究に楽観的であるのか」についてを聞いた。
”MBRPは、アルコール・薬物へのアディクションに対する革新的な治療である”(Bowen)
(原文:Dr. Sarah Bowen told HuffPost that mindfulness-based relapse prevention is a “radical” treatment for drug and alcohol addiction.)
MBRPは、シーガルらが開発したうつ病の再発予防に標的をあてた「MBCT」(Mindfulness Based Cognittive Therapy:マインドフルネス認知療法)を参考に作成された。MBRPは、認知行動療法と瞑想の要素を取り入れている。
各セッションで、瞑想の練習と、認知行動的なスキルを練習する。例えば、どんな問題のある思考がわきあがってくるかに気づくことや、それらを書き記し、慣れておく練習などが行われる。毎日の生活の中で応用できるスキルである。
MBRPは、グループで行われ、8-15人が8週にわたり、各2時間のセッションで行われる。もともとは、初期治療を終えた薬物の影響がなくなった患者対処のアフターケアプログラムであった。患者たちは、解毒し安定したが、「それでこれからどうなるの?」という状態である。彼らはこれからの人生を別な方法で生きていかねばならないのだ・・ ここにこのプログラムが入るわけだ。
マインドフルネスは、アディクションの根っこに到達する
ここがMBRPの素晴らしいところである。アディクションの根っこの問題を扱うことができるのだ。
それぞれの患者が、不快な状態にたいして違った関係性を気づくことができるようになる。例えば、ある人が、抑うつ的であり、悲しみを感じ、寂しくて、退屈だとする。これらの状況はある人にとっては、引き金をひき、そして物質を使用することになる。
これらの練習は、この感情がわきおこったことに気づき、違う方法で関われるようになるのだ。
そのため、不快な感情を感じるとすぐに物質使用となっていた自動操縦パターンを変えることができるようになる。渇望そのものも低下するし、より良い気分になるためのなにかを探そうとする傾向も減少させることになる。
さらに、患者たちは、心の中で何が起こっているかに気づくようになるのだ。いったんそれに気づくことができるようになれば、選択肢があり、そこには自由が生じるのだ。一緒にいられないと思っていた負の感情とも一緒にいることができるのだ。練習さえすれば・・
耐えられないと思っていたからこそ、物質使用に走っていた人々の根っこの問題である感情や状態に、気づきを向けることによって、シラフで耐えられるようになるのだ。
従来の治療とどう違うのか?
このプログラムは、従来のプログラムが到達できなかった可能性を持っている。患者や、前の治療スタイルでは燃え尽きてしまった治療者たちから、そう聞くことが多い。
このプログラムには、「信頼」と「尊敬」が散りばめられている。単に「どうすればもう薬を使わないでいられるか」だけを尋ねるのではなく、人間の状態や人間であることはどういうことかといった意味を見る点において、我々の治療は通常のものと異なる。
ここに革新的な変化がある。同じ輪の中に座り、依存症であろうとなかろうと、皆、人間の泥臭さや、苦労を経験した人間であることをわかちあうのである。人によっては食べ過ぎる人、人によっては他の行動への依存となる場合もある。
そのためこのアプローチは「やあ、人間たち、人間でいるのは大変だけど、ベストを尽くそうよ」というアプローチである。ときに、私たちはどのようにすれば自分が幸福になるのかわからない。しかし、挑戦して見る価値はある。カバットジンは、「あなたが間違っているところよりも、あなたが正しい行いをしていることのほうが多い」と述べている。そのため、薬物のためだけというわけでなく、人間としてもうすこしスキルをもって対応するにはどうすればよいかという話なのである。
まとめ
いかがだっただろうか? MBRPの可能性について少しでも感じてくださると幸いである。
依存症やアディクションというと、日本では、どうしても「危険ドラッグで事故を起こす」「芸能人の覚醒剤」というように一部の人の、一部の重篤問題と思われがちである。こういうのは一部の人の、依存症がかなり進行した姿をうつすものである。
「私には関係のない世界だ」そう思わせてしまう。
実際のアディクションはもっと裾野が広いし、「あなたのいる世界で起きている現象」である。日常生活のなかのアディクションは、実に我々の身近に潜んでいる。スマホやゲーム、甘いお菓子、カフェインと甘味がいっぱいのコーヒー飲料、ネットショッピングなどに辛いことがあるとつい頼ってしまい、優先順位が違ってしまう、など、日常の延長線上にあることなのである。
「わかっちゃいるのに、やめられない」状態は、誰にでも起こりうる。
アディクションを、一部の人の怖い問題・・というようなスティグマにとらわれずに、日常生活のなかで誰にでも起こり得る、嫌な感情からの逃避行動として捉え直してみてほしい。
そして、自分がどんなときにそういったアディクションの状況に陥りやすいのか、またそれに対応するスキルや瞑想をMBRPでは身につけていくのだ。
当センターでは、5月末より、オンラインMBRPを開催予定である。
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