養魚秘録『海を拓く安戸池』(37)~販路および販売~
野網 和三郎 著
(37)~販路および販売~
養鰻事業のウナギが初めの頃には一般需要者からは何かきたないもののように見向きもされなかった時代があったように、安戸池の養魚ハマチも初陣の頃は阪神市場では、荷受業者および他の業者からも、邪魔もののようにとり扱いされていたのは事実そのもので、市場価格の点でも、天然ハマチに比較して、いつも二、三割方、捨て値の価格に販売されていた。
あまり安いので、これでは生産費が出合わないから、なんとかしてもう少し勉強して販売してくれないかという申入れは、随分とながい期間続けられたのである。彼等の言い分は、なにぶん養成ものだからそう言われても仲買人、小売人が買わないのだから仕方がないといって、荷受業者としても努力せずに、どうでもよいといったあしらい方で、生産者の苦労を見返えろうともしてくれなかった。何分当時は近海ものの高級魚もかなり多く入荷もしていたし、養魚ハマチのような微々たるものには、そう力を入れてゆくわけには行かなかったようである。
安戸池としても、大謀網でとれる魚と共に出荷していたこともあって、まあおいおいに、一般消費者からもこれは美味しいといって味を知って貰える時期も来ると思って、本当に辛抱強く頑張って味覚宣伝に努めたのである。
しかしハマチを販売している市場側の扱い人が、そのハマチの味もみたこともないようでは話にもならず是非一度ためしに食ってみてくれといって、試食用にと言っては毎年いくらか宛を取扱者に対して提供していたのであるが、養成ものだと言って頭から馬鹿にして食っても貰ってはいなかったようである。
ところが扱業者と同様、仲買業者に対しても試食用としてハマチを提供していたところ、ぼつぼつと持ち前のその味が認められるようになり、天然もののハマチが入荷されない日とか、少ないといった時には市場相場も少し宛は上昇を見るようになってくる。いつもはセリ台に安戸池のハマチが乗りかける頃となると、今まで沢山いた仲買人が一人減り、二人減りして、しまいには僅かのそれも、大手仲買業者ではなく、小口仲買業者が顔を見合わせながら残り、それを安価でタタキ買いをしていたかのように見えていたが、それが次第に大手業者もボツボツと残るようになってきた。