ファンタジー小説への苦手意識が減った
ほぼ初めての筒井作品だったけど、あまりに文章が落ち着いてて心地よくて、過酷な場面でもずっと幸せだった。
「超能力を持つ人々が出てくるSFファンタジー」を読んでいる感覚はなくて、旅行記を読んでいるみたいだった。
主人公はラゴスという青年。
「スカシウマ」に乗って南を目指している。この世界の人々は心を読んだり超能力を使ったりできるようだが、科学技術は発達していない。
最初の話に出てくる能力は「転移」。
これはこういう能力で…とわざとらしい説明は入らない。
みんなの会話から自然に、どういうものかわかってくる。
集まってリラックスして行き先をイメージしましょう。心が乱れたり、鮮明に思い出せなかったり、行った先に何かがあると大変なことになるからね。
優秀でみんなをなごませるパイロット役がいれば酔わずに良い転移ができる。
「ファンタジー」は都合のよい世界じゃない。
読者にとっても未知の世界。
ここは地球と関係があるのか、完全に架空の世界なのか。主人公とともにページをめくって、歩きながらこの世界のルールが少しづつわかってくる。
南へ南へのあゆみを勧めたラゴスは、大量の解読不能なデータを見つける。
どうやら過去の文明をたっぷり詰め込んだデータが、主人公の旅の目的だったようだ。
過去の文明を解読して、価値のない赤い実からコーヒーが焙煎できることを知り、コーヒーで巨大な富を築く。
ひとつの文明が終わったあと、次の世界に継承されたのが「コーヒー」というのがなんかいい。主人公は高い地位に安定せず、人生の後半を「帰りの旅」に費やして、道中で出会った友との再会を望む。
ほとんど筒井康隆に触れてこなかったけど、ファンタジーの教科書みたい!文庫になったのが平成元年。全く古さは感じない。子供のころに読んでいれば、興味の幅がもっともっと広がってたはず。良かったー。