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なんでこんなに皆面白い小説書けるんだ!「ネイティブ・サン」と「我が友、スミス」

重すぎる表紙とか「黒人作家の存在を知らしめた問題作!BLMの原点!!」とか、そういうの関係なく読んでくれ。ぼくは文庫はカバーとって裸で持ち歩いている。サスペンスとして目が離せない面白さと、作者の全人生を刻み込んだようなメッセージに圧倒された。

主人公は二十歳の黒人男性で、白人家庭に使用人として働けることになる。
そこがめっちゃいい家庭で、お嬢さんなんて
「私は肌の色に関係なく接するし、あなたたちの文化を知りたい」
と、黒人しかいないレストランに案内させたりする人なのに、主人公ビッガーはどうしていいかわからない。白人と目も合わせられないし、仲間とはふざけ合っていたのに「イエス・サー」しか言えなくなる。

白人と同じテーブルで食事もしたことがない。
生まれた時から、いや、200年にわたって黒人は鞭を打たれてきて、やさしく握手してくる白人が何を考えているのか理解ができない。

そのあと親切な一家を凶悪事件に巻き込んでしまい、逃走パートが始まるのだが、ここが現代のエンタメ作品とひけをとらないスリル!
ひとりの事件によって周囲のヘイト行為が膨れ上がり、街をあげての捜索が始まるし、とっさについた小さなウソのためにどんどん大きなウソをつかないといけなくなるし、どんどん追い詰められていく。

作者も受けてきた人種差別を糾弾する内容なのに、「やっと親切にしてくれた白人に恩をあだで返す」内容の本作。
なんでそんなことをしたのか、かんたんに主人公の味方ができないシナリオ。登場人物みんなの視点と人生がたしかに存在して、ひとりの作者が書いたことを忘れてしまいそう。難しく考えず、サスペンス長編として読んでほしい。犯罪系小説の古典として「罪と罰」ぐらい日本でも知名度が上がってほしい。

石田夏穂「我が友、スミス」も読みました。芥川賞候補作に珍しい表紙が存在感あって記憶のはしに残っていた作品。
作者がモデルっぽい小柄な女性が筋トレをする。
力の抜けた自然な文体で、新人作家のデビュー作なのに、ベテランの人が日記みたいにマイペースに書いた、そんな印象がある。

主人公がジム通いをする理由が
「男の子にいじめられた自分を変えたい」
とか、そんな理由じゃないのが好き。「別の生き物になりたい」と口にするけど、この人、無心でひとつのことに集中している時間が好きなんじゃないか? 

書道や茶道のようにバーベルの上げ下げをする。スマホもテレビも存在を忘れ、隣から話しかけられても反応できないほど集中できる時間。
どんなストレスからも解き放ってくれる尊いひとときを愛しているんじゃないか。


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南ミツヒロ
読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。

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