【読書記録】少年と犬/馳星周
犬は、旅をしていた。
犬は、旅の途中でいろんな人に出会う。
迷いながら、家族のために犯罪に手を染める人。
生きるために、貧困に喘ぎながら犯罪を繰り返すしかない人。
いつしか気持ちがすれ違っていくばかりの夫婦。
体を売る女性。
孤独な老人。
少年。
孤独、寂しさ、苦しみ、そんな匂いを感じ取ってか、
犬は人々の前に現れ、寄り添う。
けれど、犬は旅の途中である。
孤独な人々は突然、目の前に現れた犬に戸惑いながらも
孤独な自分の生活を癒してくれる、その存在にいつまでもそばにいてほしいと願う。
犬は言葉を持たず、話すことがないから、犬が何を想っているのか人間は知ることができない。
だから、孤独な人々はそれぞれに自分の想いを重ねる。
時には背中を押してくれる存在として。
時には自分を叱咤してくれる存在として。
そこに自分の願望を乗せながら。
そして、人々はある日、気が付く。
犬は誰かを探している、と。
人々は孤独ゆえ犬を求める。犬と離れることを望まない。
けれど、自分の孤独を癒してくれた犬の願いを叶えてあげたいと、いつしか願うようになる。
身勝手で、自分のことで精一杯で、自堕落な人間たち。
そんな彼らに寄り添い、孤独を癒してくれる犬に、人間たちが自分にできることは何かと考え、最後に彼を送り出すことを決める。
犬は旅をしていた。
けれど、孤独ではなかった。
人々の想いが繋がり、犬を、会いたい人への元へと届けてくれた。
私も、昔犬を飼っていた。
幼い私はあまりにも身勝手に、気ままに生活し、
世話もしないで気まぐれに戯れていた。
18で実家を出てからは益々気ままに、時々帰ってくる存在でしかなかった私を、
それでも尻尾を振っては迎えてくれた。
10年ほど前、弱った犬は、私がちょうど実家に帰っているタイミングで息を引き取った。
「あんたの仕事でしょ」と言わんばかりに。
息を引き取った犬を埋葬した。
それ以外は何にもしていない私に、それだけはさせてくれた。
この本を読んだら、犬好きの人もそうでない人もそれぞれに犬との
思い出を思い出すんじゃないだろうか。
犬を飼った経験がなくても、どこかで犬とは出会っている人が多いのではないだろうか。
それほどに犬は人間の生活に何世紀にもわたって寄り添って生きている。
近所にいた犬。
通りかかった犬。
おばあちゃんの家で飼っていた犬。
実家で飼っていた犬。
今、隣にいる犬。