【読書の思い出】吉田修一
大好きな作家さんの一人。
まだ全部読めていないけれど、全部読みたいと思っている。
ヘビーでハードなものから、
優しいもの、
明るくなれるものまで。
「最後の息子」
これを読んだ時に感激してしまった。これで文学界新人賞を受賞されているなら、
以降の作品が面白くない訳が無い、と思う。
「ぼく」はオカマの閻魔ちゃんと暮らしている。
その生活をビデオに撮っている、という話なのだが、
それがすごく視覚的に展開していて、
映画っぽいなと思う。
完全にヒモ生活の「ぼく」。
「ぼく」の目線で描かれる閻魔ちゃんがすごく切ない。
閻魔ちゃんはきっとすごく「ぼく」のことを好きなはずなのに、
必死でそれを隠そうとしている。
そして、それに「ぼく」も気がついているはずなのに
気が付かないふりをしている。
「最後の息子」というタイトルの意味を知った時に
吉田さんの優しさの表し方がすごい!と思った。
世の中に「優しい」は数多くあれど、
こんな形が本当の優しさかもしれない、と
考えこむ。
泣きたくなるような「優しさ」なのだ。
「春、バーニーズで」という続編もあって、
そちらも切ない一編だった。
「悪人」
その「優しさ」がこれでも爆発する。
犯罪小説かと思いきや、
不器用な人間の不器用な優しさの話。
長崎と福岡が舞台で、清水という青年は土木作業員として働く。
無口で休みに自分の車でドライブすることが唯一の楽しみ。
幼い頃に母親と離れて暮らし始め、愛情に飢えている。
出会い系サイトで出会った女子大生に罵られバカにされて、
カッとなり殺してしまう。
同じ時期に出会い系サイトで出会った光代との逃避行が始まる。
光代は彼を理解したつもりだった。
理解し、愛し、その上で二人で逃げたはずだった。
本当の「悪人」とはどんなものなのか…
殺人を犯した青年だが、
その胸のうちがただただ不器用で、
孤独で、優しくて…ラストは涙してしまった。
「横道世之介」
陰と陽に分けるなら、絶対「陽」の作品。
とにかく世之介の飄々としたキャラクターが
魅力。
派手な事件が彼に起こるわけではないけれど、
彼の日常はいつも楽しい。
自分の危険を顧みず、他人を助ける人って
本当にすごいなと思うし、
一体どんな人なんだろうと思う。
実際はどんな人かは分からないけれど、
もしかしたら、世之介みたいな人かもしれない…
と考えれば、世の中が楽しいものに思えてくる。
捨てたもんじゃないよ、世界は優しさで溢れてるよ、
と思える。
愛してやまない作品の一つ。
「路」
台湾に新幹線を開通させる、というドラマがベースにある話だけれど、
私はこの小説、恋愛小説としてすごく好き。
春香は、大学生の時に台湾を一人で旅していて、
道に迷い、
台湾の大学生の男の子と出会い、
一日案内してもらう。
お互い言葉が通じずに、カタコトでかわした
断片的な交流。
連絡先を交換したのに、
それをなくしてしまい、それきりとなってしまった出会い。
時は流れ、10年以上たち、彼女には婚約者がいるが、
その淡い思い出が心に残っていた…。
台湾はもちろん好きだから、台北の風景も
新幹線を開通させる先の台南の風景も
読んでいて、「ああ、また行きたい」と思う。
台湾の熱い空気。
強い日差し。
ちょっと雑多な路地裏も、
街に溢れる香辛料の匂いも。
その中で出会う、春香と台湾人の青年のシーンがすごく好き。
淡く、触れそうで触れない距離。
恋に落ちる瞬間にドキドキ胸をときめかせてしまう。
強引なシーンのない、微妙な距離感の描き方がすごく好きだった。
昨日、ふと二人の出会いの1日が頭をよぎって
この記事を書きたくなった。
外の熱い日差しと、
室内で揺れるカーテン。
そんな風景が、頭に浮かんで。
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本を読みながら、
いつも吉田さんってどんな人なのかなあと想像している。
妄想好きだから、
こんな人かしら、あんな人かしらと一人で勝手に想像している。
優しい人だといいなあと思いながら。
→こちらを参考にしながら書きました。
まだまだ半分ぐらいしか読んでいないから、
また吉田さんの本を読んでみたい。