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7.【連載小説】 rencontre -僕の初恋-
2.
4年前のある雨の日。
【rencontre】でバイトを始めてまだ間もない頃に急な大雨で電車が止まってしまい、バイトには間に合いそうもなく途方に暮れながら駅前で雨宿りをしていた。
バイト先まで歩いて行けなくもない距離だが生憎僕には傘がない。
何に対してもやる気が出ない性格の僕は50mほど先に見えるコンビニまで走ることすら怠くていつにも増して気分が下がっていた。
『 あれ?ランコントルの人?
やっぱりそうだ。こんにちは。
いつも美味しいビールをありがとう。
電車、止まっちゃったね。 』
最初は僕がこの容姿だから声をかけてきたのだと思った。
自惚れではなく事実だ。
言い寄られることには慣れている。
もちろん嫌な気もしないが、本気で人を好きになったことなんてない。
たいして話したこともないのに、なぜ好きと言えるのか。
いつも不思議でならなかった。
所詮、顔。
そんな女は信用ならない。
だけど彼女はそんな考えすら微塵もないというように優しい笑顔で僕に傘を手渡した。
『 これ使って?
いつものビールのお礼。
私は電車を待たなければいけないし。
もう傘は必要ないから。 』
その綺麗な顔と優しい言葉に、僕は一瞬で落ちてしまった。
もしかしたら彼女の髪が雨で少し濡れていたからなのかもしれない。
もしかしたら天気のせいで景色が一面灰色だったから、より一層彼女が美しく見えただけなのかもしれない。
いろんな言い訳を探してみたけど、結局好きにならない理由が見つからなかった。
確実にその瞬間に落ちてしまったんだ。
彼女に出会うまでは自分の顔だけに寄ってくる女なんて信用できないと思ってた。
だから来るもの拒まず去るもの追わず、嗜む程度に遊んでいたと思う。
彼女と出会ってからもその性格が簡単に変わるはずもなく"お姉さんならどんな反応をするんだろう"なんて若気の好奇心で、目の前にいる女を彼女の代わりにしたことも多々あった。
でも結局、重ねても重ねてもそこに自分の感情がなければ何も積み上がらないものだと知った。
なぜなら最初から何も無いからだ。
何の意味もなければ、何も得られない。
どうでも良い女と身体を重ねたところで何も感じない。
所詮、"代わりは代わり" だ。
好きな彼女とは全く違うと知ることがただ虚しくなった。
だから僕は、僕が好きになった人と一緒にいたい。
つまりは、お姉さんがいい。
そう気付いてからは言い寄ってくる女で遊ぶのをやめた。
考え方も価値観も何もかも変えた。
空いた時間でバイトの時間を増やした。
今はすごく充実している。