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週次のひとりごと 1年目

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週次のひとりごとです。
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#文学

手の届きそうな高さを雲が流れている

 その日は天気が不安定で、雨が降りそうな気配がしていた。いつもの通りベランダで煙草を吸っていて、ほんのすこし手を伸ばせば届いてしまうんじゃないかと思うくらい近くを雲が流れていた。  もちろんそれは錯覚だ。所詮は標高数メートルに建つビルの七階。いましがた自分が吐き出した煙に手が触れるだけだ。  雨の日の部屋は煙草の匂いがする。雨脚が強まってどうにもベランダで休憩できなくなると僕は、窓辺に立って煙を吐き出す。なるべく窓を開けないようにしても、抵抗虚しく多少の煙は部屋に入ってきて

想像力 part 2

 真夜中、実家の庭で煙草を吸う。喧騒なんてどこか異国の話、静寂ばかりが耳を撫でる。ときおり、なにかの気配。  右を見やる。玄関の常夜灯に照らされて、見慣れない虫。飛んでくる種類のやつだったらいやだなあ、昨日は足元にサワガニがいたな、などと考えて立ち上がる。  もうなかに入ってしまおうと決意するにはいささか煙草が長い。なんとなく、散歩に 出ることにする。  街灯の間隔は夏でも長い、次の灯りは遥か遠い、そんな道。それでもその日は快晴、視界に不自由はない。  歩く、歩く。  

オウムアムア

 時々不思議に思うことがある。  これは繰り返し繰り返し、なんらかのかたちで「不思議だ」とつぶやいてみたことではあるのだけれど。  学生時代を終えてしばらく経って、いまはある意味で「ひとやま越えた」ところを歩いている時期だと思う。ここはあのとき見た丘の頂上なのだろうか、いやそれはあの向こうに見える峰なのだろうか、次はそこを目指そうか、はたまたあちらに登ろうか、と日々考える。  ふと立ち止まって振り返ったときに、「そういえば途中まで一緒に歩いていたあのひとはどこにいったの