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あたらよ『夜のかくれんぼ』
猫が、白いカーテンの向こうに潜んでいる。
かくれんぼが今夜もはじまった。
辺りが暗くなると防犯も兼ねて、リビングの窓は二枚重ねのレースカーテンと、シャッターまでも閉じてしまう。
昼間はカーテンを開けると、窓越しに鳥をみたり空を見るのが好きな我が家の猫。シャッターをおろして、シャラシャラという軽やかな音とともに白い膜で窓を覆うと、今度は彼にとっての秘密基地になる。
わたしたちは人間の大人だから隠れられない。何度か隠れてみたことがあるけれど、案の定猫にすぐ見つかってしまうのだ。
わたしを見つけたときの彼の顔はいつも誇らしげだ。
彼は狭いところに身を隠すことが、あまり好きじゃない子だった。
キャットタワーの小さなお家みたいなところも、白いもこもこの、かまくらみたいな形の猫ベッドもなかなか入ろうとしないし、入っても居座ろうとしない。
どこかのブリーダーが、売れ時に風邪をひいたから売れ残った、とかいうよくわからない理由で手放した1匹の子猫。
たぶん「売れ時」を逃したぶん、ブリーダーと過ごす日にちも長くて。
だから突然独りにされるなんて、どんなに怖くて悲しくて不安だったろうか。わたしたちには到底計り知れない。
我が家にお迎えしたときにはすでに、その孤独な気持ちが限界だったんだね。
わたしや夫のなおさんが視界から見えなくなると鳴いてしまうんだ。落ち着かなくなってトトトトって追いかけてくる。
「なんでひとりにするん?」て、不安そうな目をして泣くのだ。
『分離不安症』、彼の場合はそうやってこの孤独が生まれた。
……のだと、わたしたちは思っている。
隠れるより先にわたしたちを探してしまうし、時々暴れる発作みたいなのが起きると、やっぱりどこにも隠れられずに家中を走りまわる。
きみにとって、「隠れる」という本能も大切なんだよ。という親心みたいな心配も、それはもちろんしていたんだ。
……最近。我が家にきて1年が過ぎたあたりからようやく、少しずつ「隠れる」ことを覚えはじめた息子。
相変わらずわたしたちの気配がそばから消えると落ち着きがなくなってしまうから、分離不安が改善したとは思っていないんだけれど。
それでもかわいいかくれんぼをするようになったのだ。
テーブルの下、キャットタワーとフェイクグリーンの間。見え見えでまるわかりなんだけれど、おそらく彼的には隠れている。
いちばん得意な隠れ場所が、夜のカーテンの向こうだった。
でも尻尾が布の下からふりふり見えていたり、やっぱり父と母を見張っているのか、閉じられたカーテンを割って顔を出してるときもある。
すんごいかわいい。
わざと見つけられないふりをして置いておくと、いつの間にかひょっこり足元にいたりなんかして。
「はよ見つけにこんかい」みたいなジト目でおすわりしているのもかわいい。
こんなふうにして少しずつ少しずつ隠れることを本能的に覚えていって。
そうしたら次はひとりでいることに、また少しずつ少しずつ慣れようとしていくんだろうか。
そうあってほしい。ひとりでも、独りではないんだよと伝えていきたい。わたしたちがきみの家族なんだよと。
分離不安の完治は難しくとも、願わくはいつか不安よりも安らぎの時間が多くなっていって、心穏やかな毎日を過ごせるようになって欲しい。
もちろん家族として努力していきたい。
わたしたちの5分の1とかの短い命を思えば思うほど、きみの1日1日が尊いんだ。
かわいい夜のかくれんぼも、たくさんしていこうね。
『夜のかくれんぼ』
隠れてるうちに眠くなってすやすやしてしまうのも、ほんとうに自由でかわいい。
もう、きみがこわい夢を見なくてすむように、カーテンのそばで今は見守らせて。
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