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MIMU
2024年8月23日 20:05
黒猫の友人は、少し気弱だけどとても優しい青年だった。自然に囲まれ佇む水色の屋根の小さな家で、共に住んでいる。木枠の窓が多くてあたたかな白い日差しの昼と、埃みたいな星がひろがる夜空の下でランタンやキャンドルを灯して過ごす夜。猫はどちらもだいすきだった。キッチン横にある出窓の台にお気に入りのスローを置いてくれて、最近はここで日向ぼっこをする時間が多くなっている。正午を過ぎた頃。青年が作業部屋
2024年5月29日 18:31
黄色のラナンキュラスと言霊花屋の2階で少し心が落ち着いた頃、丸テーブルの向かいに座るタンゴが横の小窓越しに空を見た。「ヒナ、ここに長居してはいけないみたいだね」言いながら向き直る彼は、楽しい時間がお開きになる寂しさからなのか、眉尻を下げて笑った。「今日は夕立が降りそうだよ」天気予報では1日晴れと言っていたし、朝も、昼過ぎに店を出てここに来るときも太陽は元気だった。タンゴの真似をして
2024年5月19日 20:57
ジュネと昼間の花屋いつも朝晩通る緩やかな坂道を、自転車をゆっくり引いて歩く。今日はこの道は2回目で、朝出勤するときにちら、と脇道を見た。CLOSEの看板が立っていた。そして今は昼過ぎ。街中と少し違う爽やかな風を受けながら、それでも午後の日差しはじわっと肌に触れる。登り坂の途中でうっすらこめかみに汗をかきはじめたところで、ふわっと一瞬強い風が吹いた。「あっ」かぶっていたリネンのバケットハ
2024年5月13日 14:35
トキワナズナの耳飾り花屋「Katarina」の看板横のランタンは、いつの間にか灯りを消していた。コツコツと階段を降りる音がしたのは、ちょうどヒナがハーブティーとサブレを空にした頃だった。「わあ、」ヒナはそばに来た青年、パルムの手の中にある自分の帽子を見て感嘆をこぼす。敷物代わりにして怪我をした猫を乗せてくしゃっと歪んでいたリネンのバケットハットは、元のハリ感を戻していた、どころか、ま
2024年5月7日 12:41
リラとパルム「……魔女、ですか」ヒナは商品の帽子のつばを整えながら、ぽかんとした顔で自身が働く帽子屋の店主を振り返る。店主は、オブジェとしてカウンターに置かれていた千歳緑の花瓶に、朝買ってきたというきれいな花をさしているところだ。ヒナがオレンジの目の猫と出逢う少し前の日のことだった。店主は細い銀縁の丸眼鏡越しの目を細めて、「そうなの」と笑った。「魔女って呼ばれてるひとがやってる花屋
2024年5月6日 20:11
オレンジの目の猫22時過ぎ。仕事で心身共に心地良い疲れを伴いながら自転車で家路につく途中のことだった。ヒナは長い坂道にかかる少し手前で自転車を降り、ゆっくり手押しで歩き始めたときに、電信柱の根元で座っている猫に気が付いた。猫が好きな彼女はついつい足を止め、声を抑えながら話しかける。猫は夜の影で分かりづらいけれど恐らく黒に近い茶系の毛並みで、オレンジのきれいな双眸は丸く光りながらこちら一