「よく寝てね」と犬が言った【シロクマ文芸部】
布団から犬のぬいぐるみが出てきた。
ふにゃふにゃくたくた。
少し汚れた、茶色の垂れ耳の白い犬。
名前はなかった。と思う。
子どもの頃、いつも一緒に寝ていた。
それがふいに布団の奥から…どうして…
「おやすみ。よく寝てね」
と犬が言った、ような気がした。
僕はその古いふわふわした犬のぬいぐるみを抱きしめ、
すぐに眠りに落ちた。
朝まで起きなかったのはいつ以来のことか。
起きた時にその犬は布団の中にいなかった。
夢だったんだ。
だってあの犬はずっと昔、捨てられてしまったのだから。
なのに、ありがとう。
(了)
*小牧幸助さんの企画に参加しています。