木下龍也『あなたのための短歌集』ナナロク社
きのう生まれて初めて文フリ(文学フリーマーケット)に行ってきた。過去最高の人出だったらしくて、ブースが並ぶ通路は通り抜けが難しいほど。文章を書くことが好きな人がこんなにもいるのかと驚いた。最近短歌が人気と聞くけれど、確かに短歌のブースはにぎわっていた。
さて、この本はちょっとユニークな短歌の本だ。木下さんが<個人販売>した短歌を集めたもの。個人のリクエストに応えて短歌を詠み、その人に郵送する。その短歌はその人に所有される。この本は、それらの短歌を買った人にお願いして返してもらったものを集めたもの。「自分の名前の一字を織り込んで」とか、「前向きな気持ちで生きていけるように」とか、特定のモチーフを入れてほしいなどのリクエストにほんとにうまく応えた短歌が並ぶ。時にはちょっと甘すぎかなと思わないでもないけれど、でもうまい。
短歌は短くて簡単に書き写せるので、あまりたくさん引用するのは気が引ける。101の短歌のうち気に入ったものを7首だけ。(ちなみに、101番目のリクエストは谷川俊太郎さんからだ。)
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服を脱ぐたびにあなたは神様を辞めてわたしの獣になった
ふりむけば君しかいない夜のバスだから私はここで降りるね
捨てられたことに気付いた空き缶が迷子のような動きをやめる
宇宙とは膨張のみをプログラムされ置き去りにされたみなしご
うつくしい思い出になる10年を不安に歩く私でしたね
(10年後の自分に宛てる短歌をというリクエスト)
習性として老犬は大切なきみを記憶に埋めて隠した
(実家の老いた犬が自分のことを忘れてしまっていた。別れの時が近い。)
絶望もしばらく抱いてやればふと弱みを見せるそのときに刺せ