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「意味のデザイン」を通じて、新たな気づきを生み出す商品開発の場をファシリテートする(メンバーインタビュー・小田裕和)

本インタビュー企画では、ミミクリデザインのメンバーが持つ専門性やルーツに迫っていくとともに、弊社のコーポレートメッセージである「創造性の土壌を耕す」と普段の業務の結びつきについて、深掘りしていきます。

第4回は、東京大学大学院に籍を置く研究者であり、他方でミミクリデザインのデザインリサーチャーとして主に商品開発やイノベーション支援のクライアント案件も担当する小田裕和( @hirokazu_oda)です。小田が専門とする「意味のデザイン」について、その概要から、商品開発においてどのように活かされるのか、また、小田がその領域を研究対象としたきっかけとなるエピソードについてお伺いしています。ぜひご覧ください。(聞き手:水波洸)

「意味のデザイン」によって企業のイノベーション・プロセスを支援する


ーよろしくお願いします。小田さんは、「意味のデザイン」と呼ばれる領域で昨年博士号を取られて、現在では特任研究員として東京大学大学院に籍を置かれています。一方で、ミミクリデザインでは、商品開発のクライアント案件に取り組むチームのリーダーを務めていますよね。まず、「意味のデザイン」という領域について、簡単に概要をお話しいただいてもよろしいでしょうか。

小田 僕がよく使う「意味」という言葉ですが、元々はイタリアのミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授が提唱する“意味のイノベーション”という概念から言葉を借り受ける形で使っています。僕は“意味のデザイン”について、「モノに対して人々の中に生まれうる意味の設計と実現を行うこと」と現時点で定義しているのですが、言葉だけ聞いてもわかりづらいので、ミミクリデザインではよく「レンガ」を例に挙げて、説明しています。

例えば、倉庫に使い道のない「レンガ」を大量に眠らせている人がいるとします。その人にとってレンガは、持ってはいるけど「意味のない」ものです。だけど、状況が変わって、レンガを譲ってほしいという人が現れたり、冷蔵庫の高さの調節などの使い道が見つかったりすれば、そのレンガは「意味がある」ものとして認識されます。つまり、レンガに「意味」があるかどうかは状況や解釈によって変わる、ということになります。

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小田 「意味のデザイン」による商品開発では、そのような物体がユーザーに届けられる「意味」に着目して、新たな製品を考案していきます。さきほど、レンガによって冷蔵庫の高さが調節可能となる場面を例に挙げましたが、それを商品開発に活かすとしたら、「表面を削ったり加えたりしながら、自由な高さの足場を作れるレンガ」という今までにないコンセプトのレンガが生まれるかもしれません。

他にも、例えばサスペンスドラマだと、レンガは人を殴る凶器になったり、海に沈めるための重石になったり、状況に応じた様々な使われ方がされていますよね。レンガの「硬い・重い・片手に持てる大きさ」といった形式上の特徴を、生活においてどのように用いるのかは、生活者の状況や解釈、すなわち「意味づけ」によって変化します。

…とはいえ、レンガは冷蔵庫の足場にしたり、人を殴ったりするために作られた製品ではないので、普通に生活している上では、レンガが持つ隠された意味に気がつくことは稀かもしれません。“意味のデザイン”は、そうした隠された意味にあえて目を向けて、それらの意味が最大限発揮されるように製品を洗練させるアプローチです。さらに言えば、製品を通してユーザーがその意味の利用価値に気がつき、新しい行動や理解が促されるのではないか、といった仮説に基づいたアプローチであり、そういった点から「ユーザーに新しい意味を与えるような製品の設計と実現」を、“意味のデザイン”と呼んでいます。…こんな感じでいかがでしょう(笑)

ーありがとうございます。バッチリです(笑)ミミクリデザインでは、そうした意味のデザインによる商品開発プロセスを、ワークショップという手法を用いて実現しているんですよね。商品開発のクライアント案件が、組織開発やまちづくりなど、ミミクリデザインが担当する他の領域のクライアント案件と明確に違っていると感じる点はありますか?

小田 そうですね、やはり商品開発の案件は、ワークショップの成果が具体的なかたちとなるという点で、結果の明暗がわかりやすいですよね。結果を出すのは当たり前ですが、誰が見ても上手くいったと思ってもらえるようにすることが重要だと考えています。だから、アウトプットに落とし込むパートには毎回かなり力を入れています。これは領域による違いというよりも、ミミクリデザインに所属する他のワークショップ実践者と比較した時に、デザインというバックグラウンド持っている僕が、個人的に強くこだわっているポイントかもしれませんが。

ー詳しく聞かせてください。

小田 前提として、組織開発や人材育成の案件を主に担当する和泉裕之や、あとは代表の安斎もそうですが、自分とはまったく違うタイプの実践者によるワークショップの様子が間近で見られるようになったのは、ミミクリデザインに入ってから大きく変わったところだと感じています。「こういうやり方もあるんだ」と、インプットの機会としてかなり参考になっています。

その上で僕と和泉は、本来的には正反対なタイプの実践者なんだろうと、いつも思います。和泉は、深いコミュニケーションが生まれるような空間作り・プログラム作りに最も力を込めて取り組んでいる印象がありますね。当日も必要に応じて様々な参加者から深い話を自然に引き出していく。組織開発・人材育成の担当者として、やはりコミュニケーションに関する職能に非常に長けています。一方で僕の場合は、ワークショップに関わり始めた頃からずっと、目に見える結果や良いアウトプットを生み出すことを目的とした実践を中心に取り組んできたこともあり、どうしても「結果を出すこと」に目が向きがちです。良く言えば、「どうやったら結果が出せるのか」や、「こういうプログラムにすれば、こんな感じの結果になるんじゃないか」といった部分が、経験則的に人よりもクリアに見えていて、ゴールを見据えたプログラム設計をできるのが、自分自身の強みだと認識しています。これからは、その長所は維持しつつも、和泉の取り組み方を参考にして、場の中にあるエネルギーを活性化させて新しいものを作っていくアプローチを磨いていきたいですね。

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意味のデザイン」という切り口から見えてきた、デザイナーの本質的な役割とは


ー「アウトプットを生み出すワークショップ」に在学中から取り組まれてきたとのことでしたが、どのような経緯でワークショップと関わるようになったのでしょうか?

小田 大学生の頃はプロダクトデザインを専攻していて、手を動かして、プロトタイプ(試作品)を作る活動には、かなり時間を割いて取り組んでいました。また、その頃はちょうどハッカソンが流行っていた時期でしたので、僕もそうしたイベントに参加するようになり、そこからワークショップに関わり始めました。その時はグループでものづくりに取り組んで、短い時間のなかでいつもと違う視点で物事を考えて、アウトプットを生み出していく体験が、単純にむちゃくちゃ楽しかったですね。

自分でワークショップをするようになったのは、所属していた研究室が、様々な企業と提携したプロジェクト活動が数多く展開されている、アウトプット志向の強い研究室だったことが強く影響しています。様々な企業から課題をいただいて、同じ研究室のメンバーで取り組み、アウトプットを提出する、といった一連の流れを、大学3年生の頃からくり返し行なっていました。その研究室には、学部・修士・博士課程と10年間在籍していたのですが、年数を重ねていくうちに、後輩の数が増えていくわけですよね。プロジェクトに取り組む後輩たちが、「デザインとは何か?」や「デザイナーの役割とは?」といった事柄について学べる場をつくりたい、と考え始めて、ワークショップデザインに興味を持ち始めました。

プロジェクトでも、僕が提案を全部考えるのではなく、まずは後輩たちに考えてもらうのが教育的には良いのだろうと思いながらも、アウトプットが大学のクオリティとして評価されてしまうという側面もあり、あまり質の悪いものは出せません。なので、それはそれで自分でやるのとはまた違うプレッシャーがありましたね。メンバーの成長と良いアウトプットを両立させるにはどうしたらいいのか、ジレンマの中でいろいろ考えて工夫していました。あとは、指導教官の先生から、「新入生オリエンテーションでワークショップを作って実施してくれ」と言われたこともありました。そういう無茶振りをこなしていった経験が、今に繋がっています(笑)

ーその頃から、現在ミミクリデザインでもやっているような、チームでのアウトプットづくりに取り組まれていたのですね。そこからどのような経緯で意味のデザインをテーマとすることになったのでしょうか?

小田 大学・大学院に所属していた10年間で、プロダクトデザインをはじめ、〇〇デザインと名のつくことに幅広く取り組んできましたが、「結局デザインってなんなの?」という問いには数え切れないほど悩まされてきました。そんな中で、修士課程の時に、クリッペンドルフの「意味論的展開」やベルガンティの「デザイン・ドリブン・イノベーション」といった概念を知って、これらの考え方を切り口として、「デザインとは何か?」という大きな問いに取り組んでいきたい、という思いがまずありました。

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あとは、現代はツールの充実などによって、デザインを専攻していたり、デザイナーと名乗っていなくてもデザイン的な素養を身につけているビジネスパーソンの数はかなり増えていますよね。プランナーやエンジニアといった、デザイナーという肩書きを持たない人たちが、ものすごくかっこいいサイトを作っているケースもよく見かけます。そうした状況を迎えて、デザイナーの本来的な意味や担うべき役割が、かなりあやふやになってきていると感じていたので、それらをきちんと自分なりに固めていきたいと思ったのも、意味のデザインに取り組もうと思った理由のひとつです。

ー研究した結果、デザイナーの本来的な役割として、何が見えてきたのでしょうか?

小田 個人的な考えとして、デザインはユーザーの一人ひとりの違いに寄り添う必要があると思っています。例えばあるサービスに対する使い心地や想起される感情は、使う人によって変わりますよね。デザインは非常に定義の難しい概念であり、様々な種類のデザインが存在します。それでも「ユーザーの心の中の意味に寄り添っている」という点に関しては、あらゆるデザインに共通するのではないか、と考えています。そして、デザイナーをデザイナーたらしめている、果たすべき本質的な役割は、ユーザーの中で生まれる意味の捉え方・考え方について思いを巡らせる点にあるのではないか、と。そのような仮説のもと現在も研究活動に取り組んでいて、全部を整理するのはなかなか困難ではありますが、博士論文でまずその一端をまとめることができたと思っています。

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デザイナーとして、気づきが得られる場をアウトプットする


ー博士論文を提出したのが昨年2月ごろで、その約1年前にミミクリデザインに入られていますよね。どういった経緯だったのでしょうか?

小田 もともと安斎さんとは知り合いで、2017年の12月に「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)*」が発足したタイミングで、一期生として会員になりました。それから少し経って、WDA会員限定の交流会があり、その時に安斎さんと久しぶりに再会しました。

*「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」とは
ミミクリデザインが提供する、最新のワークショップデザイン論が体系的に学べるファシリテーターのためのオンラインコミュニティ。様々なイベントに加えて、毎週配信される動画コンテンツやメルマガ、また会員専用のオンライングループ内で交流を通じて、ワークショップデザインや周辺領域について学べる環境を日々提供している。

小田 その時がちょうど就活が始まる頃だったので、たまたまポートフォリオを持ってたんですよね。それを見せながら軽く話していたのですが、デザインを専門としながら、教育学の理論体系も引用しているところに、安斎さんが「なんで?(笑)」と興味を持ってくれて。後日一緒に飲みに行くことになり、そのままミミクリデザインに入る流れに...(笑)。そのあと、東京大学からの依頼に安斎さんと一緒に取り組む機会があり、2018年の7月から東京大学の特任研究員になりました。

ーミミクリデザインにジョインして1年、クライアント案件の中で、印象に残っているものはありますか?

小田 花王の案件とサッポロの案件は、どちらも数ヶ月間携わっていたこともあり、印象深いですね。アウトプットもきちんと出せましたし、そのためのワークショップも、当日の場のエネルギーがものすごく高かったのを覚えています。チームメンバーでしっかり力を合わせて作っていくことができた感覚がちゃんとあって、本当に良いプロジェクトでした。

ークライアント案件の中で、アウトプット作成以外に力を入れているポイントはありますか?

小田 個人的に「人がまだ気づいていないことに気づけるような場をつくりたい」という欲求は強くあります。新しい何かに気づき始めていて、だけどそれが何かわからずに、「モヤモヤする」と話している人に対して、丁寧にヒアリングを行なっていくことで、明確な気づきに変えていく。(ファシリテーションにおいては)そのようなプロセスが重要だと考えています。そうしたプロセスを経て、最終的に社内で実際にデザインする人から、商品を受け取る生活者まで、モノに関わる誰しもがワクワクできるような新しい概念や意味をワークショップを通じて引き出していきたい。そうした取り組みが今はすごく楽しくて、こだわっているポイントでもあります。僕自身も、ファシリテーターとして関わりながら、いろんなアイデアから刺激を受けたり、今までとは違う考え方を自分で生み出せるようになったりしている感覚があって、面白いですね。

ー花王などの案件では、どういったシーンでそのような手応えを感じましたか?

小田 ファシリテーションをしていて、参加者の一人ひとりが場に対する関わり方が厚くなったと感じる瞬間があったんですよね。それぞれ別のタイミングで、その人が個人的にずっと抱えていた悩みや、言い出せなかったアイデアを出してくれる時間がありました。そうした個人の内面的なものが表出されて、それをきっかけにみんなが新しい何かに気がついていく瞬間がパッと現れて、空気が変わる感覚を味わえると、なんというか、「今日は美味い酒が飲めそうだ」と思いますね(笑)

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小田 そんなふうに、自分がデザインしたアウトプットから、さらに人が新しい何かを生み出せるように支援していきたいという思いは強くあります。支援したいというか、一緒にそういう場に居たい、応援したいという気持ちでしょうか。僕は自分自身のことをデザイナーだと思っているのですが、やはり最終的には何かを生み出すための場とか、新しい学びが生まれる場だとか、そういった場をアウトプットするデザイナーとして、アプローチしていきたいですね。

ー場のデザイナーとしての自分にアイデンティティを強く持ちながら、研究と実践にそれぞれアプローチしている、というイメージでしょうか。

小田 そうかもしれないですね。デザイン研究は、アウトプットを出さないといけなかったり、再現性の担保も難しかったり、少し特殊な研究領域です。僕は研究者としてはまだひよっ子なので、大きなことを言える立場ではありませんが、研究者のひとりとして、デザイン研究の新しい可能性をちゃんと作っていきながら、一方で、そうした研究領域に実践者としてアプローチしていくのも同じくらい大事だと思っています。言われてみると、デザイナーに軸足を置いて、実践と研究の両方に携わっているというのは、確かにその通りかもしれません。

ーありがとうございます。最後にミミクリデザインのメンバーとして、今後の展望について教えてください。

小田 そうですね、ミミクリデザインの、特に商品開発の案件に限っていうと、単にワークショップを使ってコンセプトを考えて終わりにするのではなくて、その次のステップである、実際に製品を作っていくフェーズにも携われる関係を作っていきたいと思っています。あとは...個人的にはスポーツ関係の仕事をやりたいです。

ースポーツ?

小田 サッカーでも野球でも、デザインされたアウトプットによって、チーム内の関係性や、お客さんとの関係性が変わっていくような、そんな仕事をしてみたいですね。僕自身もともと野球やっていてスポーツ全般好きなので、業界に恩返しできるような何かをしていきたいという思いは、めちゃくちゃあります。自分なりのアウトプットによって、多くの人の感情的なエネルギーが一斉に活性化する瞬間に立ち会ってみたい。

ーお仕事待ってます、的な?(笑)

小田 ぜひっ!(笑)サッカーはジェフで、野球はオリックスのファンですけど、どんなスポーツでも、どんなチームでも、やりたいので!

ーありがとうございました!

▼プロフィール
小田 裕和/Hirokazu Oda(ミミクリデザイン ディレクター/デザインリサーチャー)
Twitter: @hirokazu_oda
note: https://note.mu/hirokazu_oda

東京大学大学院 情報学環 特任研究員。千葉工業大学大学院工学研究科博士課程修了。 博士(工学)。千葉県出身。新たな価値を創り出すための、意味のイノベーションやデザイン思考といったデザインの方法論や、そのための教育と実践のあり方について研究を行なっている。ミミクリデザインでは、新たな意味をもたらすための商品開発プロジェクトや、主体的に価値創造に取り組む人材の育成プロジェクトを中心にディレクションやファシリテーションを担当している。

ミミクリデザインホームページでは、過去のクライアント案件の事例が多数公開されているほか、「ワークショップデザイン・ファシリテーション実践ガイド」を無料配布中。ワークショップの基本から活用する意義、プログラムデザインやファシリテーションのテクニック、企業や地域の課題解決に導入するためのポイントや注意点について、最新の活用事例と研究知見に基づいて解説しています。

また、現在ミミクリデザインでは、以下の記事から新たなメンバーを募集しています。興味のある方は詳細をご確認のうえ、お気軽にお申し込みください。

▼小田が参画したプロジェクトの対談記事はこちら。

▼その他のメンバーインタビューはこちら

文・水波 洸
写真・猫田 耳子

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