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日日是好日 雑記


暑さの中に秋の空気が混じってきた。そろそろ自転車に乗るのが楽しい季節になってきた。

自転車って本当に不思議な生き物だと思う。小さな子供からおじいちゃんおばあちゃんまで誰でも乗ることができて、その気になればどこまでも連れていってくれる。

私も小さい頃は、愛用の自転車を『りんりんちゃん』と名付けてよく乗りこなしていた。本当にその気になれば海を越えて空を越えてどこまでもいけるんじゃないかって本気で信じていた。

大人になった今でも、自転車に乗るとドキドキしてしまうのは、きっとその名残があるからだと思う。

                       ◇

高くつくから行くのを控えていたコンビニも最近よく利用している。ちょっと尖った気持ちになっているから、自分のルールに自分で反抗してみる。学生時代はグレたりすることは微塵もなかったので、今更ちょっとした『グレ』のようなものを追ってみたりして自分だけで満足してる。ひとり劇場みたいなものを私はたまに楽しんでいる。

コンビニの自動ドア横のラックに、ぱんぱんに入っている【タウンワーク】を1冊抜き取ってリュックに入れて帰る。

家でそのページを捲りながら、自分がもしその仕事についたらどんなストーリーが始まるだろう、なんて想像したりして楽しむ。これは疲れてくるとやりだすので、タウンワークに手が出る時の自分は疲れてるんだなっていう一種のバロメーターにしている。

                       ◇

本当に久しぶりにお友達のりーちゃん(仮名)とご飯を食べた。わかってはいたけど、再会を笑い合って喜ぶタイプではないので、2日前に会ったんじゃないかと錯覚するくらい自然な流れでご飯屋さんに行った。ただ違うのはお互いマスク姿って事くらいだ。


『。。んで、LINEでも聞いたけどさ』

りーちゃんは、大好きなクラブハウスサンドを頬張りながら私に聞いた。どうでもいいけど、レタスやトマトをこぼさないように慎重に『はむっ』としてる姿を見るのが私は結構好きだ。何かご飯を丁寧に食べてるのって良いと思う。

『やっぱり作家目指すんだ』

りーちゃんは口の端っこにレタスの切れはしをくっつけながら聞いてきた。

『うん。。。まずはどんどん公募に応募するしかないんだけど、今は少しスランプ気味』

結構真面目な話をしてるんだけど、りーちゃんの口についたレタスを見てると急に日常感が戻ってくる気がしてホッとする。

『魔女宅(魔女の宅急便)みたいに、スランプになったらやめてみたりすれば良いんじゃない?』

『。。私って作家に向いてないのかなぁ』

『さぁねぇ。でも、スナフキンみたいに自由人ではあるよね』

『そうだね。スナフキン大好きだもん』

『。。。。。』

『。。。。。』

『まぁ、ぼちぼち頑張ってみれば?月並みな言い方でなんだけど』

【月並みな言い方】っていう言葉にぷっと吹き出した。確かにりーちゃんは月並みな言葉を意図的に避けてる気がする。

『ぼちぼちね。ぼちぼち』

りーちゃんは最後のサンドイッチをぱくっと食べ終わると、丁寧に口元を拭いた。

『書いてみないと始まらないよ』

『また月並みな言葉を言ってる』

昼間の下町洋食屋さんは混雑していた。道を歩く人はまばらなのに、ご飯に集まってくる動物達のように、ひっきりなしにお店には人が入ってくる。

『そろそろ出ようか、まだ消化されてないけど』

りーちゃんはお腹をさすりながらゆっくり席を立った。私も少し残してしまったオムライスに謝りながら店を出た。

                       ◇

外はからからっとした秋の風が吹いていた。青空にも少し黄色みが混じってきて、いよいよ秋がやってくる気配が見えてきた。

『マスクしながら自転車漕ぐと本当に命の危険を感じるわ』

『わかるなぁ、それ。だから取ったり外したりパカパカさせながら自転車乗ってる』

私達はそんな話をしながら、上野公園を歩いた。相変わらずここは鳩が多い。昔はその群れに走っていって【バサバサーー!】っと鳩が散り散りになるのがたまらなく嬉しくてよく突っ込んでたな、なんて思い出す。

自分には魔法が使えるんじゃないかって、小さい頃は本気で信じてた。自転車も魔法を使えるから乗ることができて、鳩も魔法が使えるから私が行けば散り散りに飛んでいくんだと思っていた。

今は、さすがにそんな事思ってない。思ってないけど、ファンデーションの最後の一欠片くらいの魔法なら使えるんじゃないかなって心のどこかで期待をしてしまってるんだと思う。

『りーちゃん』

『?』

『まぁ、やるだけやってみるよ。月並みな言葉だけど』

私はリーちゃんに笑ってみせた。結構笑顔だったんだけど、目しか見えてないからきっとりーちゃんにはわかんないだろうと思う。









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