図書館員、その本いつまでもあると思うなと語る 夏休みの宿題編
七夕が終わる頃、図書館は忙しいシーズンになってゆく。小中高大学生の夏休みシーズンの始まりなのである。期末試験を抱えてる学生はわんさかやってくるし、図書館側も夏休みイベントの準備におおわらわになる。
が、ご存知コロナのおかげで去年同様、準備していたイベントの開催は雲行きが怪しくなってきた……片付けた七夕の短冊には「コロナがはやくおわって◯◯にいけますように/できますように」と拙い字で書かれたお願いごとがすずなりだったのがやるせない。何にも気にしないで過ごせる夏休みを迎えられるようになるのはいつになるのやら……
でまあ、夏休みの図書館の話である。
小中高大学生が首を長くして待ってる夏休みは図書館の書き入れ時、もとい繁忙期であるといっても過言ではない。初日から最終日までが借り物競走会場の様相と化すのだ……主にお客さんの。そう、課題図書争奪戦の開幕である。
〜夏休み初日〜
小学生の男の子。スタスタとまっすぐカウンターにやってくる。
「宿題で、一年生の国語の教科書に載っている『動物の赤ちゃん』の本を探してます。小林緑さん(仮名)の本です。クマの赤ちゃんの話です」
カタカタ……検索。
「はい、ありますよ。動物のコーナーですね」
〜3日目〜
小学生の女の子、手にプリントを持ってカウンターにやってくる。
「えっと、国語の宿題で、『動物の赤ちゃん』って本を探してるの。クマの話で、小林……忘れちゃった、あ、書いてあった小林緑さんって人の本」
「小林緑さんの『動物の赤ちゃんシリーズ』コグマの巻は貸出中だね。他にライオン、トナカイ、ウサギ、ゾウ、イルカがあるけどそれじゃあダメかな? コグマを予約することもできるよ」
「じゃあ予約する」
〜8月入り〜
小学生の女の子withパパ、自分で訊いてごらんよとパパに促されて女の子がカウンターにやってくる。
「えええっっ……あの……動物の赤ちゃんの本……」
「探してるのかな?」
「うん」
「動物の赤ちゃんの本なら何でも良い?」
「……ダメ。……国語の……」
メモを差し出してくる、そこには見慣れた作者の名前とタイトルが。
「『動物の赤ちゃん』小林緑さんのコグマの本は貸出中、今同じシリーズで残ってるのはトナカイ、ウサギ、イルカだね」
「……じゃあ、イルカ……イルカ好き!」
〜8月2週目〜
小学生の女の子、妹を連れて来館。ここら辺からわりとフリーダムな発想の子たちが多くなってくる。
「『動物の赤ちゃん』の本どこですか?」
「動物の赤ちゃんについてならどれでも大丈夫かな?」
「たぶん。あ、ダメ、教科書の!」
「小林緑さんのはみんな貸出中になっちゃったね。予約する?」
「えーーー、じゃあ他の人のでも良いや! なんの赤ちゃんにしよっかな♫」
〜8月3週目〜
小学生の女の子withママ、土曜日早じまいの茜刺す閉館1時間前に小走りにカウンターにやってきてママがまくしたてる。
「すいません! 『動物の赤ちゃん』って本なんですけど! 教科書に載ってるやつなんですけど!」
「すいません、現在ほとんど貸出中で、今館内に残ってた1冊は他のお客様がご利用中で……」
「あ!ママ! あれモエちゃん(仮名)だよ!」
バタバタと先客の母子に駆け寄る女の子とママ。どうやら同級生母娘らしい。以下ママ同士の会話。
「久しぶりぃーーー! そちらも宿題?」
「そうなのよーーー! あ、うち今国語は終わったから大丈夫! はい、これ!」
「あっりっがっとぉぉぉぉ! ほら! 早くやっちゃいな!」
〜夏休み最終日〜
小学生の男の子withママ、閉館間際ホタルノヒカリをBGMに駆け込んでくる。
「すいません! こんなギリギリにごめんなさいっ! 動物の赤ちゃんって本が……」
息咳切ってるママの手を振り払って男の子が物語コーナーへダッシュ。
「ママ見てっ! 『海賊ポッケ』がこんなにあるっ!」
「今は『海賊ポッケ』じゃないっ!」
ミサエを思わせるたくましいママの一喝が児童図書コーナーにこだまする……
ちなみに、検索機の前で蝉の如く課題図書一覧を持った親御さんが貼り付いているのはもはや風物詩です。リストに、子供に読んでもらいたい自分のおすすめ本に丸をつけて持ってきてるお母さんや、子供と片っ端から検索かけるお父さんをよく見かけます。カウンターにいる職員に「何でも良いからこのリストに載ってるやつ10冊出して」と100冊近いリストをよこされるのもあるある話……目星ぐらいつけて欲しいです。
ちなみに課題図書争奪戦は小学生だけでなく高校生や大学生の間でもよく見られる。ドストエフスキー、V・E・フランクル、夏目漱石辺りが引っ張りだこ。棚からほとんどはけてしまって、
「え? 図書館なのに夏目漱石が無いんすか?」
とかって言われることがあるけど、それは君と同じ大学の同じ講義を受けてる同輩が先に借りちゃったからぞなもしと言いたくなる。作者によっては青空文庫にもあるのでそちらをご覧あれ。課題の提出直前シーズンには大抵の関連図書は貸し出されていると思ってください。
それでも検索をかけると、うちの館にあるのは貸し出されてしまったけど本館や別館には在庫が残っているケースもある。今日か明日中に取りにいくなら確保しておけます勧めると、ありがたやありがたやと圧政に苦しむ島原の民の前の天草四郎のごとく拝まれる。地獄に仏とキリスト、マホメット、提出期限直前に図書館にあった課題図書である。確保できたって折り返しの電話があったと伝えたらカウンターの前でイエーイとハイタッチしていた女子大生2人組もいた。
「良かったね、〆切明日だもんね! 今夜は徹夜だなっ♪」
テンプレみたいな台詞をありがとう。何故人は提出直前にならないと筆がのらないのだらう……
この本書庫から出してくださいっ! と、《本館》と書いてあるレシートを差し出してきた学生もいた。どうやらうちを本館と勘違いしていたらしく、予約かけますかと訊けば、それでは間に合わないので今から本館にいきますという。だったら取り置きしますので、確保できたって折り返しの電話があるまで5分くらい館内でお待ちくださいと勧めると、
「いえ、自分はもう出ますからっ! あとはお願いしますっ!」
と、ビグザムの前のコアファイターばりに飛び出して行ってしまった。速すぎるよスレッガーさん! 本館で貸し出しになっちゃったらどうするんだよ!? ドズルみたいな強面教授からの課題なのかしら……
……程なくして「確保できましたよー」と事務所から同僚が伝えに出てきたから良いものの、タッチの差で貸し出されちゃうこともあるので取置きする時は頼むから折り返しの電話を待っててくだされ。
……それにしてもハイタッチや猛ダッシュを目の当たりにすると若さというものを感じる今日この頃……夏がまぶしい。
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