"ELLEGARDEN"という名前を聞いたあの日から。
"ELLEGARDEN"という名前を初めて聞いたのはいつだっただろうか。記憶の中での一番最初は2011年(多分)にJUN SKY WALKER(S)を観にZepp Tokyoに行った時のことだったと思う。
当時自分は中学の3年(多分)で、いわゆる『大箱』に来るのは初めてだった。中1の時に先輩が歌っていたブルーハーツを聴いてのめり込んでからというもの、近所のブックオフを巡ってはCDを集めるのが休日の過ごし方で、そうこうしているうちに「あいつはブルーハーツが好きらしい」と言われるようになった。
どうやらそれが他の先輩の耳に入ったのか、「じゃあこれも聴いてみたらどうだ」と差し出されたのがジュンスカだった。そうこうしているうちに、「どうやらジュンスカが再結成するらしい」ということになった。ブルーハーツはもう観ることはできないが、ジュンスカは今ならライブに行けるらしい。
僕は先輩に連れられて、初めてあの観覧車下へと潜っていったのだ。
フロアにはジュンスカ世代と言われる、オブラートに包まずにいうと結構な歳の人がたくさんいた。先輩はその中で明らかに若い"お兄さん"に話しかけに行く。仕方なく僕もついていく。彼は先輩の先輩(これ以外にどう形容していいか分からない)で、僕とは6つほど歳の離れた大学生だった。正直、中3から見た大学生なんてほとんどおじさんと変わらなくて、「この人いくつなんだろう…」と思っていた。
彼もジュンスカが好きで、運よく取れたチケットでここに来たのだという。
「ジュンスカ再結成はヤバいね〜。最近はHIATUSとか聞いてるんだけど久々のジュンスカ楽しみ。知ってる?HIATUS。ELLEGARDENの人が今やってるやつ」
今思えば、そのタイミングはthe HIATUSが3rdアルバムを発表するかしないかくらいの時で、ELLEGARDENの活動休止を目の当たりにしたばかりの人が多かったのだと思う。
その時は「ELLEGARDEN?知らないですね…」という感じだった。「聴いてみて、カッコいいから」先輩の先輩はそう言った。
そういえば、よく「エルレの世代じゃないのに詳しいね」と言われるのに気づく。たしかに彼らが活動休止を発表した2009年というのは僕がまだ中1の時だ。先ほども書いたようにそのころ僕はブルーハーツ一筋だった。
だから僕は現役世代ではないのだ。
それからしばらく時が経って、ジュンスカのライブに一緒に行った友だちが「ELLEGARDEN、めっちゃいいよ」と言って来た。しかし、その頃の僕といえば「もうブルーハーツは全て聞き尽くしてしまった(実際、未発表曲などもYouTube(当時のYouTubeは今と全然違った!)で探したり、アルバム全部集めたりして殆どの曲を知っていた)」となって、「次はハイロウズとクロマニヨンズだ!」と意気込んでる状態。
僕のiPod(既に懐かしい響き!)にはブルーハーツとジュンスカとハイロウズばっかり入ってて、しかもちゃんとCDを持っていた。
つまるところ当時の僕は「いやいや、この世で甲本ヒロトの歌以上に素晴らしいものなんて存在しないんですよ」と思っていて、聞く耳を持たなかった。(あの時はごめん)
でも、その内にだんだんと凝り固まった心が少しずつ溶けていったのだ。
…それは10年以上経った今だからそう言えるのかもしれない。当時の自分は絶対に認めなかったと思う。
原因はいくつかあった。
「クールだ」とされている先輩はめちゃくちゃ音楽に詳しい。自分もそうなりたい。だから色んな音楽を聴きたい。
そのクールな先輩に気に入られている友だちも音楽に詳しい。悔しい。
ギターを始めたのにブルーハーツしか弾けないと自慢できない。悔しい。
今思い返すと多分こんなところだと思う。
今でこそ色んな音楽をそれなりにフラットに受け止める事ができるが、当時の自分のやり方/生き方ではそれは簡単なことではなかったように思う。
10年前は今ほどデータの規制が厳しくなく、とにかく膨大な量の曲をハードディスクに持っている先輩がいた。色んなところ(ゆるゆるのインターネット)から曲を集めることがクールで、それがみんなからの信頼を得る一つの手段でもあった。
元来、年上に甘えることが苦手な気質の自分が、意を決してその先輩から貰ったデータの中に、『ELLEGARDEN』という文字があった。
最初に聞いた曲がなんだったのか。こればかりはどうしても思い出すことができない。別にこれはELLEGARDENに限ったことではなく、最近好きになったアーティストでも余程のことがない限り初めて聞いた曲は思い出せない。
大抵は誰かの車の中でシャッフル再生されたアルバムのどれかがすごくピンと来て、後々そのアーティストの名前を聞くとか、ライブに行って「めっちゃいい!」と思ったけどセトリ覚えてないとか。
そんな感じで、確か最初は適当に聞いていたんだと思う。だから、どう頑張っても最初に再生ボタンを押した曲は思い出せないのだ。
でも、最初に感動した曲は覚えている。No.13。
当時はまだちゃんと英語も分からないまま。そのメロディとバンドサウンドに一発で引き込まれた。訳の分からない興奮が、安物のイヤホンをつけた僕を包んで離さなかった。夜の台所で、iPodを握りしめて動けなかった。
「もっと早く教えてくれよ」そう神様に文句を言いたかった。
それからというもの、僕の生活の中には常にELLEGARDENがあった。秋が来れば"The Autumn Song"を聴き、冬が来れば"Winter"、クリスマスには"サンタクロース"、年末には"New Year's Day"を、また夏が来たら"Surfrider Association"を聴く日々が始まった。
どうしても英語の曲が作りたくて、英語の勉強をした。どうやらパワーコードというものがあるらしいと知って、ギターの練習をした。ストラップの長さを変えて、どんどんギターの位置が低くなっていった。
もちろん、the HIATUSも聴くようになった。新しいシングルが出たら買って、Deerhoundsのギターを弾きながら歌う練習をして、どうやらこの人たちは音楽的にすごいことをやっているようだと知って、音楽理論の勉強をした。
細美さんは体を鍛えているらしいと聞いて、筋トレをしたりもした。(全然続かなかったけど)東日本大震災の支援活動を行っていると聞いて、自分も東北に行った。
生活のすべてが、細美さんーELLEGARDENを中心に進んでいた。
それからしばらくして、MONOEYESというバンドが動き出すことを知った。デビューシングルを聴いて、これはライブに行かなくてはいけないと思った。初めてダイブをした。
細美武士という人間が目の前にいることが信じられなくて、お台場の夜、外に出てからもまだ信じ切れていなかった。
ELLEGARDENというバンドを、目の前で見ることはできないけど。僕はなんとかやってる。今この瞬間、MONOEYESの曲を口ずさみながら、毎日を過ごして、たまにELLEGARDENの曲を聴いて、それでも悪くないじゃないか。そう思っていた。
2018年。これは鮮明に覚えている。この日は夜行バスで東北に向かう日だった。「どうせちゃんと寝れないんだろうなー」と思いながら新宿駅に向かって、いつも通り時間ギリギリで、友だちからLINEが来て走りながらバスタに行った。
出発してしばらくして、消灯された車内の中で「そろそろ寝る努力でもするか…」と思いパッとスマホを見た時に飛び込んできたのが活動再開のニュースだったのだ。
僕は泣いた。真っ暗な車内で、他の客に迷惑がかからないように声を殺しながら、それでも感動の涙は止まらなかった。
バンドの活動休止なんて、きっと解散みたいなもんで、ましてやMONOEYESを始めて掛け持ちしているこの状況じゃ、復活するとしてもまだまだ先だろう。
きっと心のどこかでそう思っていたんだ。でも、ELLEGARDENはそう思っていなかった。毎年細美さんがブログに書き続けていたSupernovaで始まるライブの復活は、本当に存在したんだ。
少し時が経って、復活ライブに行けないまま、それでも同じようにELLEGARDENを聴く日々は続いていて、2020年の忌まわしきパンデミックがあって、その中で久しぶりにMONOEYESを観に行ったりして。そんな中で発表された新曲。「現役のバンドに戻ります」そう宣言して始まったMountain Top。
いつもならnoteではあまり口語を使わないようにしているのだが、激アツでしたね。
何より9/9という日付が本当に嬉しい。冒頭にも書いた通り初めて心を掴まれたELLEGARDENの曲、No.13の最初の歌詞"September 9th"、その日に新曲。これは多分全てのELLEGARDENファンが言っている事だと思うけど、本当に最高の日に最高のニュースだった。
それから運良く(本当に運が良かったと思う!)当たったLost Songs Tourに行くことができた。コロナ禍で声出しもできず、整理番号の関係もあってだいぶ後ろからだったがそれでも、ようやく「ああ、ELLEGARDENというバンドが今、この瞬間に存在しているんだ」と思うことができた。
そしてニューアルバム。"The End of Yesterday"。このアルバムは自分の音楽活動や、毎日の生活にも強く影響を与えてくれる。初めてELLEGARDENを聴いた時はまだガキだった自分が、大人になって聴く「ELLEGARDENの新譜」というものがこんなにも大きなものなのかと実感した。
残念ながら、それに伴って行われたツアーは見事に全落ちした。
「これを逃したらもう次はないのかな…。声出しが解禁されたELLEGARDENのライブも見てみたかったな…」そう思っていた。
そのツアーの真っ只中、今回のGet it Get it Go! SUMMER PARTY 2023の開催が発表された。
本当に運が良いことに、一次先行でチケットを手に入れることができたおかげで、一昨日、叶わないと思っていた夢が叶ったのだ。
ライブ自体については今更何を書くこともない。とんでもなく楽しかった。ご存知のようにとんでもない暑さだったが、スタッフの方々がお水を配ってくれたり、セキュリティの皆さんが僕をがっちり捕まえてくれたのでどうにかなった。本当に感謝しかない。
声出しも全面解禁で、モッシュダイブの応酬。こんなにも楽しくていいのかと幕張の空を眺めながら思った。
全てのパーティが終わって、ほぼ脱水前の洗濯物くらい濡れたTシャツを着替えて電車に乗りながら考えた。
僕はおそらく「邦ロック」だとか「パンク」だとかそういう次元でELLEGARDENが好きなのではない。"ELLEGARDEN"というバンドが、ただ純粋に好きなのだと気づいた。マリンスタジアムのアリーナで抱いた全ての感情がいまだに僕の心を支配している。
『ELLEGARDEN』という名前を聞いたあの日から12年。「また会おう」と言われたその日を信じて、今日も生きていく。
それでは皆様、またモッシュピットで会いましょう。