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そうだ。僕はそれが好きだったんだ。

あんなに何度も繰り返し聴いていた曲を、いつの間にか口ずさみすらしなくなった。日本史の用語よりも気合を入れて覚えたあのアニメの設定が、パッと出てこない。
嫌いになったわけでもないのに、日焼けしていく写真のように、色褪せていく。

「好きなもの」が「好きだったもの」に変わるようになった。昔は、ただ目の前にあるものを好きでいればよかった。
年をとるにつれ変わっていくものが増え、いつしか進むばかりで落としたものを振り返る事もなくなっていた。でも、私はそれが好きだったのだ。

壊れるような音量でブルーハーツを聴いていた中二の自分に会ったらどんな顔をするだろう。「何をジャズなんか聞いてるんだ」と怒られるだろうか。
でも、嫌いになったわけじゃないんだ。それだけは分かってほしい。今は、ただ今は、少し遠いところにいるけれど、この足跡はその場所からずっと続いているんだと、伝えたい。
それに、今なら前よりも少しだけ知っている事が増えたから、分かることも増えたんだ。今君が狂ったように聴いているthe HIATUSの曲の歌詞、「ライ麦畑」の匂いがするぜ。

それに、「好きだったもの」がまた「好きなもの」に変わる事だってある。あんなに好きだった野球を見なくなってから十年近く、君はまた球場に帰ってくるよ。あの頃とは座る席は違うけれど、あの頃よりもちょっとだけ詳しくなっているよ。
あの日、試合中に他球場の結果がでて、マジックが1になって、もう優勝の瞬間は目前!って感じだった。少し寒かった。立ち見しか席がなくてさ。でも、観客もフィールドも熱くて、その瞬間を今か今かと待っていた。
でも、上手くいかなかったんだよなあ。抑えの投手がピンチを招くと、次の打者が打った球は無惨にも外野に落ちた。中盤に逆転したチームはそこで再逆転を食らって、その日の胴上げはお預けになった。
でも大丈夫、それから10年してそのチームはまた優勝する。今回も目の前では観ることができなかったけど、前回よりもちゃんと試合を観て、マジックが減る仕組みも理解して、天王山を制した時はテレビの前で手を叩くよ。

だから、きっと大丈夫。いつでも思い出せるよ。昔聴いてた曲も、続きを読むのを諦めた本も、再生ボタンを押すようにまた出逢いに行けばいいよ。
その時はきっと、前よりも少し解像度が上がった景色が、新しくも懐かしく広がっているはず。
そして、思い出す。僕はこれが好きだったんだ、と。

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