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周りなんか、気にしなくていい。副業からライターを始めて本当によかった

「いつ結婚するの」

 職場でそう言われていた頃、私は30を既に過ぎていた。30半ばになると言葉ではなく、周囲から目で訴えられ始める。

 いつ、結婚して会社を辞めるのかと。

 私の仕事は、事務職だった。事務の仕事は受付業務も含まれており、職場の花的存在でもある。しかし、花とはいつか散りゆくものだ。美しい時期には限りがある。

 職場が求める花は、実に若くて瑞々しい。枯れ行く花は、引退の圧を迫られていく。

 私が就職した頃、女性は寿退社が主流だった。面接を受けた時も「27歳になったら、結婚してね。それまでは仕事を続けてもらわないと」と言われたように思う。

 今なら、セクハラと訴えられるのかもしれないけれど。これが、25年前のスタンダードだったのだ。

 ずるずると仕事を続けていくうちに、気づけば35歳を過ぎていた。

 特技なんか、何もないし。これまでずっと、真面目に事務作業を淡々と続けてきただけ。取り柄なんて何もない。これから私、どうしたらいいんだろうか。

 周りからの「結婚して、早く仕事を辞めてほしい」という圧が凄い。でも、なかなかいい相手に恵まれない。

 顔で選ぶな。男は、仕事や年収なんかじゃない。自分のことを、本当に思ってくれるかどうか。そんなことを、周囲から口酸っぱく言われ続けた。

 でも、上手いことを言う男たちは皆、それぞれに裏があった。同居をチラつかせる男。それとなく、浄水器を買わせようとする男。

 甘酸っぱい言葉をかける男たちは、どこかみな浮ついた言葉を口遊む。浮き足立った様子は、どこか落ち着かない。そんな男たちについていって、幸せになれる訳ないだろう。

 変に勘が働く私は、彼らの誘いを全て断り続けた。周りからは選んでるとか、理想が高いだの。色々言われ続けてきた。

 挙げ句の果てに、結婚は妥協しろと。なんで妥協して結婚してまでして、仕事辞めなきゃいけない訳?

 もしかしたら、自分は結婚できないかもしれない。けど、会社からの「辞めろ圧力」が強いので、いつかは辞めなきゃ。

 だったら、自分で稼ぐスキルを身につけたらいいのかも。そんなことを、ぼんやりと思うようになった。

 真っ青な顔で仕事をしていたら、職場の人から「会社を休んでいいから。この街コンへ参加しなさい」と声をかけられた。きっと、私も追い詰められた表情をしていたのだろう。

 馬鹿正直なので、本当に会社を休んでその街コンへ参加した。

 女1人なのは、私だけ。みんな若くて、ピチピチしていて。ひらひらのブラウス、タンクトップ。ショートパンツ、ミニスカートを履くギャルもチラホラ。

 キラキラ眩しい中で、35歳の枯れた女は私だけ。私、なんでダボダボのTシャツにジーパンで参戦しちゃったのだろうか。

 今日、バーベキューコンだよ?肉焼く気、みんなある?皿洗う気ある?

……帰りたい。

 1人隅っこでオロオロしていると、「ハイ、肉ー!肉ーー!」と、大声で叫びながら肉を焼く男性を発見。

 精悍な顔立ちをした彼は、強いオーラを放っていたので目を引いた。気迫が凄まじいので、誰も彼に近寄ろうとはしない。

 にも関わらず、なぜか私は彼に一目惚れしてしまった。

 早速声をかけに行くと「僕は、このイベントの社長で参加者ではありません!それに、すごく可愛い彼女もいるので。あなたと恋愛は、無理です!」と、きっぱり断られる始末。

 彼の正体は、イベント会社の社長だった。

 彼は私の誘いに応じなかったが、「今度街コンがあれば、また誘うので来てください」と言ってくれた。そこで、彼と連絡先を交換することになる。

 その後、彼のLINEタイムラインに「街コンサイトのライター募集」という案内が流れてきた。

 当時、アメブロで婚活ブログを書いていた私。文章を書くのは自信があったので、早速応募することに。

 すると「みくさんって、文章を書いたことありますか?」と聞かれた。そりゃそうだ。ライター募集しているのだから、どれくらい書けるかはチェックしたいはず。

 そこで、当時書いていたアメブロのPVスクショとURLを送ったら、即採用という流れに。

 社長からは、のちのちこう言われた。

「正直、全然期待してなかったんだよね。この子、本当に文章書けるのかなと。大丈夫なのかなって。

ブログ読んでびっくりした。天才だと思った。君はいつか、凄く稼ぐライターになれると思う」

 その彼の言葉が、今の自分を後押ししていると言っても過言ではない。この出会いをきっかけに、私はライターを目指すことになる。

 人生とは、どこでどう転がるかわからないものだ。あの時、会社の人から街コンに誘われなければ。参加して、社長に声をかけていなければ……。

 そして、社長が今の夫を紹介してくれたので。彼と出会っていなければ、結婚もできなかったのだ。

 社長が耳の病気になり、かかりつけの病院で「うちの街コンに、客寄せで看護婦を呼びたいんですけど。誰かいい人いません?」と医師に交渉したところ、「コイツならいますよ」を差し出されたのが、我が夫である。

 あの時、社長に一目惚れして声をかけなきゃ、ライターの仕事も、結婚も。何もかも掴めないままだった。チャンスを感じたら、声をかけていくって大事だと思った。

 社長に初めて話しかけた時は、緊張して声が震えたものだ。

 社長も「は?」と、怪訝な顔をしてきたし。それでも怯まずに声をかけたことで、私は数々のチャンスを掴めたのである。

 小さな勇気が、大きく道を開く。あの経験から「これだ」と思ったら、躊躇せず前に進もうと思った。

 私は今、数々の大手メディアで執筆できるライターとなった。時には、テレビで見ている方へインタビューすることもある。

 あの頃の自分が今の姿を見たら、きっと信じられないだろう。ライター始めた頃は、それなりに右往左往していたけれども。

 オロオロしながら婚活したり、ライターを始めていた頃の私に伝えたい。あなたはその後、素敵な人と出会い、結婚している。可愛い娘も、隣にいる。

 そして、何年もライターとして活躍しているよと。




#自分で選んでよかったこと

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