こんな和歌を詠んでみたい~和歌と演技の社交的楽しさ
高校時代に図書館で、遠藤周作全集を授業サボって読んでいたときのこと。何で遠藤周作全集だったのか忘れたけど、きっと遠藤周作が好きな人は全員好きな『沈黙』を読んで、これはすげーなーって好きになって、他にどんな小説書いているのかな、と何気なく書架の函入の本を取り出した覚えがある。
ビニールのカバーが丁寧にかかっていて、表紙をめくったところに「月報」なるものがあった。遠藤周作の研究者や、三田文学の当時の編集長(遠藤周作は慶応なので)などが、エッセイを書いていた。
その中で、女優の名取裕子の名前を見つけたので、「へー名取裕子さんて、松本清張の原作映画にも出てたけど、純文学も好きなのかな」と思い、読んでみました。
題名は確か「遠藤先生とのタクシーの思い出」とかなんとかだったと思う。
個人的に親しかったらしいですね。
中身は文学と関係ない話で、遠藤先生がとってもおちゃめな人だっていうことを、まさに遠藤愛にみちみちた筆致で書いていた。
遠藤先生は、何かのパーティーの帰りに名取裕子さんとタクシーが一緒になったそうな。もともと、名取裕子さんはパーティーの帰りにタクシー一緒でいいというくらいだから、遠藤周作の小説のファン。そして、遠藤先生も女優として文句なく美しい名取裕子さんのファンであったらしい。
そしたらね……(^-^)。
まことに、こっからがみこちゃん好みの話でさ……。
「どちらに行きますか」
(運転手は、遠藤周作も名取裕子にも気がついている)
「いいから早く出してくれ」
(遠藤先生不機嫌に吐き捨てるように)
「ごめんなさいね」
(名取裕子さん、遠藤先生の機嫌損ねたかなとオロオロと、運転手に謝ったのか、遠藤先生に謝ったのか、多分両方にそっと呟く)
「だから、ごめん、悪いと思っている。女房とは別れるって、言っているじゃないか、ボクを信じてくれないのか」
(遠藤先生いきなり名取裕子の手を握ってがばばばーっと名取裕子を抱く)
「イヤ!そんなのイヤ!待って待ってって、いつまで待たせるつもりなの」
「聞き分けのないこと言わないでおくれ」
「イヤと言ったらイヤ!」
タクシーの運転手のことは書いてありませんでしたが、ルームミラー横目でそっと見ながら多分こんな顔していたことでしょう。
はい(^-^)。
突然の遠藤先生の、タクシー運転手の視線を思いっきり意識した迫真の演技に、名取裕子さんは、そのおちゃめな冗談をきちんと受け止めて、演技で返したわけですね(笑)。
なんとも仲の良いことで、羨ましいなあ……。こんな関係っていいなあ、やってみたいもんだなあ……と思ったけど、そこは当時いち女子高生のみこちゃんです。
みこちゃんがやっても援○交際のもつれ(やってあげたプレイに対して料金が合わないなど)としか思われず(爆)、これは、あくまで、文壇の大スターと、スクリーンの大女優だったからこそ成り立つ、演技という社交空間の華やかな一シーンなのでした。
なんでこれが、表題の「こんな和歌を詠んでみたい~和歌と演技の社交的楽しさ」の前フリで紹介したかというと、これって、万葉集の額田王と大海人皇子(後の天武天皇)の雑歌と同じだな、と、古典の授業で昔習ったやつを思い出したからでした。
額田王といえば、天智天皇・天武天皇との三角関係が有名で、この遺恨で壬申の乱が起こったという説もあるくらい(日本史の学者は否定してるけど、なんだかそうであって欲しい)の絶世の美女、まあ、名取裕子さんも凄い美人だしね。
こんな和歌が、遊猟という公的行事の宴席で、みんなの前で詠まれました。
まずは、額田王です。
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
(今は天智天皇と付き合っているけれど、大海人皇子は、実はまだ私に気があって、彼は袖を振って好きだと伝えてくるわ。そんなあちこちで袖を振っていたら、見張りの人がこれをみて、秘めた恋がばれてしまうじゃないの)
んでもって、こんなのいきなり人前でバラされたら、普通の男性なら、あわわわわー(゚0゚)、やめてくれーーー、俺には女房と子供が(爆)。
しかし、そこは、プレイボーイでならした大海人皇子です。
紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも
(紫草のように色美しく映えているあなたのことをいやだと思うなら、人妻なのにどうしてあなたのことを恋い慕いましょうか、いや、恋い慕ったりはしません)
これのポイントは、万葉集において、これが「雑歌」に分類されていて、「相聞歌」に入っていないことなんですよね。
つまり、これ、遊猟という公的行事の宴席にいた人たちは、「ひゅーひゅーおのれら、噂はほんとうだったんだな―、壬申の乱起こるでホンマにー、やんややんやー」って、いう遊びだったのです。
どうですか、これって、遠藤周作先生と名取裕子さんのタクシーの中での演技そっくりですよね。
そんな和歌への親しみ方を解説してくれるのが、この本です。
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