ENDLING: THE LAST

外見は犬に似ているが、直立二足歩行をし、言葉を話す種族ダイアン。絶滅の危機に瀕していたが、その原因は美しい毛皮を密猟者に狙われているからだけではない。嘘を見抜くという、人間にとって非常に不都合な能力があるからだ。ダイアンのビックスは、人間の独裁者マーダーノに群れを皆殺しにされ、自分が種族全体で最後のひとり“エンドリング”かもしれないという現実を突きつけられる。そして伝説の詩をたよりに、ほかのダイアンを探す旅に出る。

作者:Katherine Applegate(キャサリン・アップルゲイト)
出版社:HarperCollins(アメリカ)
出版年:2018年
ページ数:383ページ
シリーズ:全3巻


おもな文学賞

・カーネギー賞ノミネート (2019)

作者について

アメリカの児童文学作家。1956年ミシガン生まれ。多数の児童書、YA作品を発表している。動物を扱った作品が多い。夫との共著「アニモーフ」シリーズは、シリーズ累計3500万部以上の大ヒットとなり、2020年にはグラフィック・ノベル化と実写映画化が発表された。邦訳に、アニモーフシリーズ全54巻中5巻(早川書房)、ニューベリー賞受賞作『世界一幸せなゴリラ、イバン』(岡田好惠訳 講談社 2014年。2020年に「ゴリラのアイヴァン」として映画化)、『クレンショーがあらわれて』(こだまともこ訳 フレーベル館 2019年)、など。

おもな登場人物

●ビックス:11歳のメスのダイアン。群れを皆殺しにされ、仲間を探す旅に出る。
●トブル:オスのウォビック(キツネに似た種族で、耳と目が大きく、尾が3本ある)。ウォビックの年齢では42歳だが、人間の数え方では8歳。ビックスに命を救われ、忠誠を誓う。
●ギャンブラー:オスのフェリベット(クロヒョウに似た種族)。人間につかまって牢獄に入れられていたが、ビックスに助けられる。肉食なので本来は人間やウォビックを襲うこともあるが、旅の仲間は襲わないと約束する。
●マーダーノ:人間の独裁者。ほかの種族の支配や絶滅を目論んでいる。また、隣国ドレイランドへ戦争をしかけようとしている。
●カラ:14歳の人間の少女。少年のふりをして密猟者のガイドをしてるが、実はかつてマーダーノ家と戦ったドナティ家の末裔。
●ルカ:15歳の人間の少年。学者のたまご。実はドナティ家を裏切ったコープリ家の末裔。
●レンゾ:15歳の人間の少年。盗人。ドッグという名前の愛犬を連れている。

あらすじ

※結末まで書いてあります!

 ネダーラ国ではかつて、人間をはじめとする6つの種族が力を持ち、それぞれの領域が定まっていた。ネコ科の大型肉食獣に似たフェリベットは森を、両生族ナティティは海を、猛禽族ラプティドンは空を、馬並みに巨大な昆虫テラマントは地下を、その他の場所を人間が支配した。そしてダイアンはすべての場所の行き来を許されていた。この6種族は言葉を話し、道具を使い、魔術を操る。6種族以外には、言葉と道具は使うが魔術は使えない種族(ウォビックなど)と、言葉を話さない種族(犬、馬など)がいた。ダイアンは、顔は犬にそっくりだが、直立二足歩行をし、前足には人間のような親指があって物をつかめる。脇にはモモンガのような皮膜があり、広げると滑空できた。そして非常に美しい毛皮に覆われていた。密猟者に毛皮を狙われ、絶滅の危機に瀕していたが、数が減った理由はそれだけではない。人間にとって非常に都合の悪い能力を持っていたからだ。真偽を見抜く力だ。そのためダイアンは重要な会議に立ち会い、真偽の審判を下した。独裁者マーダーノはこの能力を嫌い、ダイアンを根絶やしにしようとする。ダイアンは森に隠れて暮らしはじめた。

 ダイアンのビックスは7人きょうだいの末っ子だ。群れは4家族のみの構成で、ほかの群れに会ったことはない。ダイアンが最初に上陸したという伝説の島ダイアンホルムにはいるかもしれないが、島の場所は詩の形でしか伝えられていない。北東の海に浮かぶ不思議な島で、ひとりで動く島だという。一縷の望みをかけて、ビックスの群れはダイアンホルムを目指すことになった。出発の日の朝、ビックスは海岸を散歩し、ボートでひとり流されていたウォビックのトブルを助ける。しかし密猟者に狙われ、トブルと一緒に森に逃げる。遠回りしてすみかにもどると、人間が集まり、ダイアンの死体が積み重なっていた。マーダーノの兵士たちだ。ビックスは逃げようとしたが矢を受けて気を失う。気がつくと、馬の背に乗せて運ばれていた。密猟者のガイドの少年が助けたのだ。少年は傷の手当てをし、洞窟に向かった。
 カラと名乗るガイドは、少年ではなく少女だった。女は狩りを禁止されているため、男の格好をしていた。夜中、トブルが助けにきて、ビックスを縛っていたロープを噛み切る。ウォビックには3本の尾があり、いちど命を助けてもらったら3回命を助け返すという掟があったため、助ける機会をうかがっていたのだ。しかし、逃げ出したものの、大蛇の群れに襲われ、やむなくカラに助けを求める。カラはビックスを殺すつもりはなく、6種族の学者が集まるウルシナ島に連れていき、フェルーシ教授に保護を頼むつもりだと話す。教授は種の保存に取り組んでいて、カラは珍しい動物を見つけるとフェルーシに届け、報酬を得ていた。ところが島にいくと、状況が変わっていた。マーダーノがダイアンの絶滅を発表し、国を挙げて弔いの儀式を行おうとしていたのだ。ビックスを見た教授は、ダイアンの絶滅を否定するよりも、マーダーノの発表に従うことを選ぶ。ビックスを地下牢に入れ、弟子のルカに殺害を命じたのだ。しかし、学者として納得できないルカはひそかにビックスを逃がす。ビックスは隣の房にいたフェリベットのギャンブラーも逃がすように頼んだ。フェリベットも人間に殺され、数が激減していた。ビックスとギャンブラーはルカに連れられて別の建物に逃げたが、兵士に見つかる。追いつめられたビックスは、皮膜を広げて窓から飛び降りた。広場ではマーダーノに仕える魔術師アラクティクが盛大に儀式をおこなっていたが、ビックスはその上空を滑空し、アラクティクがいる舞台に突っ込む。群衆は大混乱に陥ったが、ビックスは追いかけてきたギャンブラーの背に乗って逃げた。そしてカラたちと合流し、密輸船で脱出した。
 船のなかで、カラは自分の家族のことを話した。マーダーノ家の独裁が始まったのは、カラの曾祖父の時代だ。マーダーノ家に対抗したコープリ家、ランティゾ家、ドナティ家のうち、カラはドナティ家の末裔だった。内戦は10年続き、コープリ家の裏切りで、ランティゾ家とドナティ家は処刑される。カラの父は逃げのびて名前を変え、マーダーノ家の所有物だけを狙う盗賊、密猟者となった。カラは魔法の剣“ネダーラの光”を受け継いでいた。ふだんは錆びついてボロボロだが、いざとなると燦然と輝く剣だ。
 これからどうするか決めなくてはならなかったが、カラはビックスの希望を尊重し、このままみんなでダイアンホルムを目指すことになる。マーダーノが意図的にほかの種族を絶滅させようとしていることが分かったいま、ダイアン探しはビックスだけの問題ではなかった。しかし、手がかりはダイアンに古くから伝わる詩と、詩をもとにビックスが子どもの頃に描いた地図だけだ。一行は希望だけを胸に、北へと向かった。
 マーダーノがいる首都サグリアでは、ルカが兵士に賄賂を渡したので城壁内に入ることができたが、ルカはビックスたちの正体も密告していた。ビックスたちは捕らえられ、マーダーノの前に引っ立てられる。ルカはかつてドナティ家を裏切った、コーブリ家の末裔だったのだ。しかしカラはルカの裏をかき、ビックスに生まれて初めての嘘をつかせてマーダーノの手を逃れる。ダイアンが見つかったらマーダーノに仕えさせるつもりだと進言したのだ。ほかのダイアンがいなければ、嘘はばれない。マーダーノはカラの言葉を信じ、ダイアン捜索を命じた。ルカは罰せられることになった。
 ビックスたちは食料や物資を与えられ、6人の兵士に付き添われて出発する。途中でアラクティクの手下である炎の騎士に見つかるが、炎の騎士とマーダーノの兵士が戦っているすきに逃げる。その際、炎の騎士に捕まっていた少年を助けた。どこか見覚えがあると思ったら、前にカラの馬を盗もうとした少年だった。各地を転々としている盗人でレンゾという名前だ。カラは嫌悪感を剥き出しにするが、土地勘があり、簡単な魔術も仕えたので渋々同行させた。レンゾの魔術の助けもあり、しつこく追ってくる炎の騎士を罠にはめ、息の根を止めることができた。
 国境付近の山の上から海を見下ろしたとき、ビックスの胸が高鳴った。南から北に移動する島が見えたのだ。滑空する動物も見えた気がした。

 レンゾはカラに忠誠を誓った。レンゾは、カラがドナティ家の人間であることも、聖剣“ネダーラの光”のことも知っていた。曾祖父がドナティ家側の兵士だったのだ。カラはもうひとつ大事な儀式があるといって、トブルの尾結いの儀式をする。ウォビックは成人と勇気の証として3つの尾をひとつに編むのだが、トブルはその機会を逸していた。トブルの勇気と忠誠心を疑うものは誰もいなかった。
 伝説の島は存在した。しかし、裏切りを知ったマーダーノは、追っ手を送ってくるだろう。ルカも、何らかの形で追ってくるかもしれない。さらに、ネダーラ国とドレイランド国のあいだでは、戦争の機運が高まっていた。それでもビックスは希望を胸に、友であり新しい家族でもある仲間とともに、次の一歩を踏みだすのだった。

 群れの仲間を殺されたビックスは、自分が単なる群れの最後のひとりではなく、ダイアンという種族全体の最後のひとり、エンドリングかもしれないという現実を突きつけられる。さらに人間の独裁者マーダーノがほかの種族も絶滅させようとしていることがわかると、寄せ集めの一行の心もとない旅が始まる。
 物語はビックスの一人称で語られる。家族のなかでも末っ子で、いつも誰かのあとをついて回っていたビックスは、自分で考え、自分で決断を下さなくてはならなくなる。自問自答を繰り返しながらも、仲間に支えられて前に進む。忠実なトブルと、密猟者の少年に扮しているが実は名家の少女カラとの3人で始まった旅は、百獣の王ギャンブラー、学者のたまごルカ、盗人のレンゾが加わり、ビックスだけでなく全員にとって大事な旅になる。途中でルカの裏切りにあうものの、ビックスは旅を通じてこれが新しい自分の家族だと気づいていく。
 ダイアンやウォビックをはじめとする架空の動物の設定もユニークだが、なにより旅の仲間がみな魅力的だ。トブルはナルニア国物語のリーピチープのように勇敢で忠誠心に富み、しかも優しい。ギャンブラーは獰猛で戦闘能力が高いだけでなく、ジャングル・ブックのクロヒョウのように賢く示唆に富んだ助言をする。カラの愛馬、レンゾの愛犬は言葉を話さない動物だが、いずれも主人に忠実で勇敢で、大切な仲間だ。人間のカラ、ルカ、レンゾもそれぞれの思いを抱えて旅を共にする。レンゾは後々、カラの右腕として、大切な存在として成長していく。
 独自の歴史(マーダーノの独裁が始まったのはカラの曾祖父の時代で、現代を基準にすると第二次世界大戦頃と思われる)、独自の生物がいる世界で、あくまでも語り手はビックスだが、自然界の均衡を崩したのは人間だ。単なる動物世界のSFファンタジーとしてではなく、地球が抱えている問題に目を向ける、人ごとではない物語として読める作品である。
 児童書の冒険物語は、ハッピーエンドが約束されていると言っていいだろう。本書のキーワードのひとつも「希望」であり、ほんのわずかな希望と手がかりが、ビックスたちの大きな力、支えとなっている。不安を吐露する主人公は等身大で、目指すのは生物多様性を尊重した共存世界だ。種族の違いはそのまま人種の違い、個人の違いと置き換えて読んでも響く。まさにいま、現代の読者に届けたい物語だ。

シリーズ紹介

第2巻 Endling:The First
ビックスたちは、ついに動く島に上陸する。しかし、ダイアンの親子を見つけたものの、期待していた結果は得られなかった。あらたにダイアンのコロニーを探す冒険が始まり、海底へ、地底へとビックスたちは進む。

第3巻 Endling:The Only
ビックスの目的が果たせたところで、カラは自分の積年の夢にとりかかる。マーダーノを倒し、全種族が尊重し合って暮らせる世界をつくるのだ。ビックスはカラ率いる平和軍の大使として、ウォビック族の長や両生族ナティティの女王と交渉し、協力を求める。ひとりぼっちのビックスが同族の仲間を探し求めた旅は、全種族、全土を巻き込む壮大な冒険に発展する。

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