時を駆ける男
これは、いつだったか、わたしが見た夢を物語ふうに書き下ろしたものです。
その時の雰囲気を思い出しながら、描いたイラストを挿し絵にしてみました。(それで時間がかかってしまいました)
よかったら、へんてこな夢の世界を旅してみてください。
本編
久しぶりに幼馴染と会ったのは、写真のコンテストの会場だった。コンテストのテーマは「出会い」で、彼女は自分の家族との出会いをテーマにした写真を出品していた。
それは、例えば彼女の子供だった。母親のあたたかな眼差しを、そのまま切り取ったような写真だった。俺には、決して切り取ることのできない濃密な世界が、そこにあった。
この日、彼女のインタビューがあった。残念なことに、俺は到着が遅くなってしまい、聞くことが出来なかった。
ただ、彼女の晴れやかな表情や、彼女のステキな写真を見て、この美しい世界から逃げるように、トイレに行った。
トイレから出ると、スーツを着た女が俺に名刺を渡した。
実は、俺はカメラマンだった。ただし売れてないし仕事もないから、アルバイトをして、爪に火をともすような暮らしをしていた。なのに変な見栄があって、幼馴染が「コンテストに出ない?」って言ってきた時に、「別にイイよ」ってカッコつけちゃった。
こんな言い方をするぐらいだから、もちろん、俺は写真を用意していない。
でも、俺は慌てていなかった。
俺には特殊な能力があるためだ。
(2週間ほど時間を巻き戻せば、とりあえず写真を用意して額装するぐらいはできるはず)
そう計算した俺は、名刺をくれた女性に「ちょっと出てきます」と伝えて、建物の外に出た。
俺には特殊な能力があって、簡単に言ってしまうと、過去に戻ることができる。具体的に言うと、過去の自分と入れ替わり、自分の未来を変えることができるという能力だった。
俺は精神集中して、2週間前の自宅に向かってジャンプした。
一瞬ののち……。足の裏に地面を感じ、目をあけた。
(あれ?)
目の前にあったのは地下へ続く、赤い階段だった。こんな怪しげな場所、俺は知らない。
予想外の展開に、俺は焦った。
すると、その時だった。
ものすごい強風が俺を襲った。俺はいっしょうけんめいに踏ん張ったけれど、ずるずると靴底が滑って踏ん張りがきかない。その先にあるのは、下りの階段だ。
このままでは転がり落ちてしまう。
でも、つかまるものが何もない。
絶体絶命の、瞬間。
ビュウッと風の音がして、俺の体が宙に舞い上がった。
「うわー!」
ガランとした階段に悲鳴が響く。
まるでカンフー映画のワイヤーアクションみたいに、階段の上を俺の体がふっ飛んでいく。
そのまま、うまいこと着地できるなんて甘いことはなく、俺の体は、踊り場の壁に叩きつけられた。衝撃のわりに、意識がハッキリしていることに、俺は驚いた。
風は、ぴたりと止んでいた。
ふいに階段を上がってくる若い女の子の声がした。俺は壁際に転がったまま、薄目を開けた。短いスカートの制服を着た女の子がふたり、楽しげに歩いてきた。女の子にダサい姿を見られるのは無念だが、体が動かないので仕方ない。
女の子たちとは別に、怪しげなボサボサ頭の歳をとった女と、コワモテでガッシリとした大柄な男というヘンテコなコンビも見えた。
女の子のひとりが、ボサボサ頭の女を見て「あれ、怪しい外国人じゃない?」と聞こえよがしに。
すると、ボサボサ頭の女は、変なイントネーションで「ワタシ、ワカラナイネ」と答えた。女の子たちは、その年代に特有な意地の悪いキャッキャ笑いをしながら、足早に通り過ぎた。
怪しいコンビが、俺に近づいてきた。俺は逃げたかったけど、腰がひどく痛くて動けなかった。男が、点検をするみたいに、俺の体や額に触れた。
ボサボサ頭の女が俺の顔を覗き込み、にやっと笑うと
「ヘタに動かない方がいいね」と、流ちょうに言った。
男が俺を軽々と担ぎ上げた。ここがどこなのか、今がいつなのか。分からないまま、なぜか、俺はコトンと眠りに落ちた。
ボサボサ頭の女は、この街で治療院をやっていた。俺はベッドの上で痛む腰を抱えながら、「こんな状態じゃ、明日は仕事どころじゃないな!しょうがない!休むしかないね!」と、朗らかに独り言ちた。
すると、例の男が存外に優しい笑顔で、「お前、おもしろいやつだな」と言った。
体調が回復すると、俺は女の下で修業を始めた。俺は女を「先生」と呼んだ。俺たちは、飯時になると近所の食堂へ行った。ふたりとも、ここの唐揚げ丼が気に入っていた。
飯は自分の稼ぎで食えというタイプの先生だった。
修行を始めたころは、金がなくて、普通のごはん茶碗に唐揚げを乗っけたやつしか食えなかった。でも、だんだん稼げるようになると、唐揚げが野球のグローブみたいにデカくなり、ごはん茶碗が丼になった。
それと逆に、先生の飯は小さくなっていった。はじめは男のスポーツ選手かと思うぐらい、デカい唐揚げを乗せた丼ぶり飯をペロリと平らげていたのに。それだけじゃなく、先生も小さくなっていった。
俺は、先生のもとで修業を始めたころから、髪を伸ばし始めた。俺の中の自信と比例するみたいに、髪がどんどん伸びていった。
髪が腰に届くほどになると、行きつけの美容師に頼んで、毎月、違う髪型にしては、俺の街を歩いた。
ある日、知らない女に声をかけられた。中くらいの美人だった。俺を振り向かせたくて、気合いの入ったドレスを着ていたが、しょうじき、似合っていなかった。
女は俺と一緒になりたいと言った。俺がうやむやな態度をとると、女はそれを肯定的な意味にとった。女は俺にドレスや高価な下着をねだった。
俺はなんだか面倒くさくなってきた。次は、どの時代へ行こうかと、また考え始めていた。
あとがき
久しぶりにストーリー仕立ての夢を見て、しかも、わりと鮮明に記憶していたので、物語にしてみました。
ちなみに、この夢の中で「俺」として登場したのは、俳優の妻夫木聡さんでした。ww
「2000字のストーリー」に応募しようと思って、2000文字きっちりに揃えたのですが、「若者の日常を書いてね」という応募要項を見落としていたことに気が付き
(;゚Д゚)< この話は絶対に「日常」じゃない!!
(; ・`д・´)< なにか!なにか参加できるものはないか!
と探して、こちらに行きつきました。
(*´ω`*)< しかも、イイ感じのテーマですわ……。
禍福は糾える縄の如し。人間、万事、塞翁が馬(←文学部卒っぽいことを言ってみた)
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