フィードバックは宝物
先週後半、去年の秋にヒーヒー言いながら8週間で納品した大型案件(new words 11万ちょい、repetition 7万ちょい)のフィードバックが来ました。
あれだけの量なので、フィードバックが来るまで半年以上かかるのもやむなしとは言え、私にとっては完全に過去の仕事。記憶の彼方に埋没しており、プロジェクト番号で確認するまで「えっ? なに?」という状態(笑)。
この翻訳、完全に門外漢の内容の上、翻訳会社の指示で出来たファイルから順番に納品するという状況でしたが、いつもの“死ぬほど検索”手法で最終〆切に間に合わせました。
今回「訂正してくれ」と指摘されたのは入力ミスも含めて47ヵ所。今のところ翻訳会社からは何も言われておらず、今後も訂正してくれ攻撃が続く可能性も否定できませんが、万が一あの分量で47ヵ所だけなら自分を褒めてあげたいですね。
そして、この訂正は基本的にソフト・装置・機能の名称のどの部分を日本語に訳して、どの部分をカタカナで残すのかの違いで、文章の内容的には間違っていなくて安堵しました。
ところがです!
「この文章に書き換るように」と指示された文章が常体なのです。そもそも翻訳する時点で文体の指示がなかったので、最初に私が訳した文章は敬体でした。日本語の場合、敬体の方が受け入れられる確率が高いので、指示がない場合は迷わず敬体にします、私。
この仕事を依頼してきたヨーロッパの翻訳会社担当者に「訂正の文体が異なるけどどうしたらいいのかをクライアントに確認してくれ」と頼んだのですが、「そんなことは気にせずに相手の指示通りに書き直せばいい」との返答でした。それを聞いて「えっ?」と驚きました。
敬体の中に意味もなく突然登場する常体……みなさん、どう思いますか? 私は気持ち悪くてしかたありません。
エッセイなどで敬体と常体が混合する場合、大抵はそこに明確な意図がありますが、今回訂正依頼されたのは産業用テキストなので、翻訳を依頼した会社の日本語担当者が、訂正にあたって普段慣れ親しんでいる文体を採用しただけと推測されます。
この文体の処理に関して後からクレームが入るようなら、そもそも翻訳前に文体を指定すればいいだけし、訂正時に文体の違いの処理を確認するように頼んだ…と、きっちり反論しますよ、私。
日本の翻訳会社だとこのような問題は稀ですが、日本語を理解するスタッフがいない海外の翻訳会社だと、最初にこちらも気をつけないと後からこういう問題が発生します。今回はいい勉強になりました。
このフィードバック、いわゆる「あなたの翻訳、ここがマズイよ」という苦情のことが多いので、翻訳者によっては自尊心が傷つけられるでしょう。しかし、私は専門外でよく知らないままに訳した文章の正しい言葉や言い回しを覚える機会と捉えるようにしています。そう思うことで自尊心を保護しているとも言えますね。
100%の確信で翻訳文を出せるのが理想ですが、現実はそうも行きません。特に専門外の文章だと、多かれ少なかれ「これでいいのかなぁ」と不安を抱えたまま出すことが多々あり、フィードバックは自分の不安を解消する機会にもなります。
訂正することで翻訳支援ツールのメモリに正しい翻訳が入るとはいえ、確実さと効率を考えたら、文芸翻訳では当たり前の「表記統一リスト」が実務翻訳にもあると便利だと思います。そういう資料を最初から出してくれる翻訳会社は仕事のプロです、間違いなく!
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