スーパームーンに願いを込めて
この1ヶ月、生まれて初めての出来事ばかりが予告なしに突然に、立て続けにもの凄いスピードで、そして否応無しに起きている。
ひとり暮らしなのでこの外出制限下においては友達にも家族にも会えない。制限が解除されるまではひとりでアパートにいるしかない。物理的には今、私は孤立した状態だ。
この今の状態は、日仏米と3カ国でひとり暮らしを長年経験して、ひとり暮らしに相当慣れているこの私でも流石にちょっとしんどい。
そして日本の7都府県に緊急事態宣言が正式に発令された今、いよいよ日本で暮らす家族の健康のことが本気で心配になってきた。
でも、そういった心配事は別に「私」だけに限った事では決してなく、世界中のみんなが同じ境遇に置かれ、そして同じく不安を募らせているのだ。
だから自分だけが弱音を吐けないし、ちょっとのことは我慢しなければいけない。
何とか、このピンチをチャンスに変えてこの場を切り抜けなきゃって思って、落ち着いて冷静に淡々と行動してみようとするけど、そうしようとすればするほど、なんかどことなく空回りで、気分もなんとなく乗らない。
「どうした、自分。」
気合い入れても、冷静さを取り繕っても、本当はもう、きっと、どうしたら良いのか自分でもわからないのだ。いや、本当はわかっているけど、もしかしたらこの現実から背を向けたくなっているのかもしれない。
そんな時はもう、この現実から一瞬背を向けたっていい。一旦全ての事を忘れて思い切って外出制限下のパリの街に10分でもいいから出てみよう。そしてひとりアパートで思い詰め過ぎて、どうにも回らなくなってしまった頭の中をちょっと空っぽにしてみよう。
今から外出するのは億劫だが、今夜はスーパームーンが見れる特別な夜だからやっぱり出ることに決めた。
時間はもう、午前2時半を回っていたが、万が一警察がいたら困るので一応外出許可書を作成して、それを四つ折りにしてコートのポケットに入れた。
アパートの外に出てスーパームーンを見つけるまでそんなに時間はかからなかった。目の前にあるスーパームーンは今まで見た事のないくらいめちゃくちゃ大きかったからだ。
世界中の人々が危機的状況にあるのをこのスーパームーンは知っているのか知らずにいるのか、とにかくその大きな丸い物体は薄白い光を放っていた。心配事で頭がいっぱいの私にはその光がもう、美しいのか神秘的なのか、それとも不気味なのかさっぱりわからなかった。
私はその不思議な輝きを見ながら、生まれて初めて月に向かって手を合わせた。15分間の外出を終えて、私はアパートに戻った。
ちょっと精神的にキツいなと思った時には無理をしない。長い人生はまるでマラソンのようなものだから、ここで無理をしたら途中で絶対しんどくなってしまう。だから頑張らなくていい時だってあるんだ。
ちょっとここは柔軟にペース配分して、予期せぬ夏休みをいただいたつもりで、休み休みいこう。
その方が結果的には息が詰まった状態で無理をした時より絶対いい結果が出る筈だ。
だからちょっと休憩を入れて心の余裕を取り戻そう。