Mikio Katayama

フランス語教員。フランス文学研究者。専門は中世フランス文学とフランス演劇。劇評も書きます。また古典戯曲を読む会@東京の運営も行っています。

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最近の記事

Dégueulasse !

兵庫県県知事選の結果で暗澹たる気分になっている。 先々週、授業で久々にゴダールの『勝手にしやがれ』』を学生と一緒に見たのだが。その中でジャ=ポール・ベルモンドが何回か言うDégueulasse  ! って言葉は、まさにいまみたいな状況で、吐きたい言葉だ。 この語はラテン語のgula 「のど、食道」「口」そこから「大食い」に由来する。 ちなみに大食いは中世では悪徳の一つと考えられていた。 ラテン語で「口」を表すos, oris は、フランス語には継承されず(音韻変化の過程で

    • 猫のいる風

      • オウィディウス『変身物語』第11巻読了

        オウィディウスの『変身物語』第11巻を読み終えた。約800行と短いものの、じっくり時間をかけて読んだので2年以上かかった。中村善也訳、高橋宏幸訳、大西英文訳の日本語訳三種類に加え、Loeb版の英語対訳やビュデ叢書の仏語訳なども参照しながら読み進めた。こうした訳や注釈がなければ理解できない箇所も多かったが、ゆっくりと時間をかけて原文と向き合うことで、オウィディウスの華麗で優雅な文体に触れる喜びは深く味わうことができたように思う。自在に緩急を操る、まるで曲芸のような語り口で紡がれ

        • ルネサンスは世俗語への愛に目覚めた時代

          16世紀、ルネサンス期は、古典ギリシア・ラテン語文化の復興期だが、フランスではフランス語への愛に人びとがめざめた時代でもあった。国王を中心とした近代国家体制の形成期ではあったが、当時の文人たちが「フランス語」le françaisを「国家語」とみなしていたかどうかはについては疑問なので、「母国語」への愛着というのは躊躇するが。また16世紀中だけを見てもフランス語の様相はあまりにも流動的であるし、テクストの書き手や印刷業者によっても大きく異なっており、安定した統一的かつ標準的な

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        • フランス語史と英語史
          9本
        • イラストレーション
          4本

        記事

          『フランス語の1000年』、フランスの語彙学者アラン・レの著作。上下巻で1200ページを超える大著なので積読になっていたが、文章は平易で読みやすく、内容も仏語の外的歴史を中心にしたもので非常に面白い。無味乾燥な言語現象の列挙ではない、「フランス語と歴史」の本。

          『フランス語の1000年』、フランスの語彙学者アラン・レの著作。上下巻で1200ページを超える大著なので積読になっていたが、文章は平易で読みやすく、内容も仏語の外的歴史を中心にしたもので非常に面白い。無味乾燥な言語現象の列挙ではない、「フランス語と歴史」の本。

          フランス語で-eで終わるけれど、男性名詞の国のリスト

          フランス語には女性名詞の国名と男性名詞の国名があるが、女性名詞の国名のほうが多い。語尾が-ieで終わっている国名はすべて女性名詞。この語尾はラテン語の語尾-iaに由来する(ex. Italia > Italie)。 いくつかの女性名詞の国名は、-iaあるいは-ieという語尾が変形して、-eとなった。フランス語のドイツを指すAllemagneはラテン語のAllemaniaに由来するが、口語で変形し、Allemagnieではなく、Allemagneとなった。スペインEspagne

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          フランス語で無冠詞の国名のリスト

          フランス語で無冠詞の国名、都市国家あるいはフランスからみて遠方にあると感じられる島国が多い。 - Andorre アンドラ - Bahreïn バーレーン - Chypre キプロス - Cuba キューバ - Djibouti ジブチ - Haïti ハイチ - Israël イスラエル - Madagascar マダガスカル - Monaco モナコ - Oman オマーン - Singapour シンガポール - Taïwan 台湾 - Sain

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          フランス語で国名が複数形の国のリスト

          フランス語で国名が複数形の国。アメリカ合衆国、オランダあたりはフランス語の初級の教科書にも載っているが、他にも多数ある。南洋の島国が多い。 - Les États-Unis アメリカ合衆国 - les Seychelles セーシェル - les Philippines フィリピン - les îles Féroé フェロー諸島 - les Pays-Bas オランダ - les Emirats Arabes Unis アラブ首長国連邦 - les Tonga

          フランス語で国名が複数形の国のリスト

          なんて夢って面白いのだろう。目覚ましで起きてすぐ忘れてしまったけど。眠い。

          なんて夢って面白いのだろう。目覚ましで起きてすぐ忘れてしまったけど。眠い。

          カーボベルデ人の友人

          2014年に、学生時代以来、数十年ぶりにニースに行き、この町にある語学学校で2週間のフランス語教育の研修を受けた。そこで知り合ったのがアフリカ西岸のセネガルから500キロ離れた海上にある島国、カーボベルデからやって来たアルフレッドだ。カーボベルデの人口は50万人ほどだが、その数倍の数の人間がヨーロッパやアメリカに移住しているらしい。アルフレッドがヨーロッパに来るのはこれが初めてだった。 カーボベルデから欧州までは飛行機で6時間ほどかかり、航空運賃もかなり高額なのでそうそう往復

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          モントリオールのコリアン

          2013年7月末から8月にかけての3週間、私はケベック州政府が主催するフランス語教授法の研修に参加するため、モントリオールに滞在した。カナダのケベック州の人口は約800万人で、その8割はフランス語話者であり、州の公用語はフランス語である(カナダは州ごとに公用語が定められている)。モントリオールはケベック州最大の都市で、フランス語ではモンレアルと呼ばれる。研修はモントリオール大学で行われ、日本人6名、韓国人3名、ラオス人2名の給費研修生の他、自費参加のケベック人1名、他の州から

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          古代ローマの愛のケース:ケーユクスとアルキュオネーの美しく哀切な夫婦愛

          古代ローマの作家、オウィディウス[前43~後18ころ]の『変身物語』第11巻の終わりにあるケーユクスとその妻、アルキュオネ—のエピソードは、私がこれまで読んだなかで、もっとも痛切で美しい夫婦愛の物語だ。 アルキュオネ—の不安をよそに航海に出かけたケーユクスは海上で嵐に遭遇し、溺死してしまう。アルキュオネ—は夢の神モルペウスによって、夫の死を知る。以下は夫の死に慟哭するアルキュオネ—の長い独白の最後の部分だ。 Multum fuit utile tecum ire mihi

          古代ローマの愛のケース:ケーユクスとアルキュオネーの美しく哀切な夫婦愛

          2024/9/8に慶應義塾大学で行われた《英語史ライヴ》はアカデミックでありながら、外に開かれた自由でおおらかで楽しい催しだった。 慶應義塾大学英語史のゼミ生と#heldioというWebラジオのリスナーを核に、こんな企画が成立するなんて!これは驚くべきことですよ、本当に。

          2024/9/8に慶應義塾大学で行われた《英語史ライヴ》はアカデミックでありながら、外に開かれた自由でおおらかで楽しい催しだった。 慶應義塾大学英語史のゼミ生と#heldioというWebラジオのリスナーを核に、こんな企画が成立するなんて!これは驚くべきことですよ、本当に。

          イングランド王はフランス人女性を好む?

          ヘンリー2世(1152)からヘンリー6世(1445)に至る約300年のあいだ、歴代イングランド王の王妃で、イングランド人女性は一人もいません。イングランド王妃は、すべて大陸のフランス出身でした。イングランド王の宮廷では少なくとも英語で公文書を作成することになったヘンリー5世の時代までは、継続的にフランス語が使われていました。 (この記事の内容は、Henriette Walter, Honni soit qui mal y pense, Paris, Laffont, 2001

          イングランド王はフランス人女性を好む?

          【語源クイズ02】travel(旅行)の語源

          英語で「旅行」を意味するtravelの語源となった語の意味は次のうちどれでしょうか? 拷問器具 トラブル 仕事 陣痛 正解は、1. 拷問器具です。英語の travel は、古フランス語の travail から中英語の時代(13世紀後半)にフランス語から借用された語です。当時は古フランス語では、travailの動詞形 travaillerは、「悩む、労苦する」と言った意味で、中英語でもこの意味でそのまま借用されました(寺澤芳雄編『英語語源辞典』研究社、1997年、p.

          【語源クイズ02】travel(旅行)の語源

          【語源クイズ01】Walnat(くるみ)の語源

          日本語の「くるみ」の語源は「呉の国から伝えられたことからクレミ(呉実)の転。『延喜式』などにはクルミを指す「呉桃」の字も見られる」とのことです(レファレンス協同データベースより)。フランス語ではくるみは、noixと呼ばれ、ラテン語のnuxに由来し、ラテン語ではくるみだけでなくあらゆる固い殻と種を持つ果実を意味していました。なおラテン語でも、フランス語でも樹木名は男性名詞、果実名は女性名詞です。 英語ではくるみは、walnatと呼ばれますが、なぜこの名称なのでしょうか?以下の

          【語源クイズ01】Walnat(くるみ)の語源