異臭の正体(母の難病#17)
【11月5日〜】
3連休明けの朝。ホスピスから電話が来た。
「お母さんの血圧が下がってきていまして…」
聞けば上の血圧が70台。しかしそれは一時的で、90台まで持ち直しているとのこと。一応連絡、ということだった。
おぉ…。転院してすぐに危うくなるとは。
心配だったので、午前中の仕事を終え、区役所で用事を済ませた後に施設へ向かった。
看護師さんから説明を受けたが、やはり一時的だったようだ。注意深くみていきます、と話があった。(結局、1週間経った今でも毎日70台〜100台を行ったり来たりしている)
不安定な血圧が心配ではあったが、それよりも気になり過ぎることがあった。それは母の異臭と口の様子だ。この1ヶ月半、母はずっとマスクをしていたから気が付かなかった。この日、呼吸をしやすくする配慮なのかマスクが外されていたが、母の下唇の内側が黒くただれ、歯は茶色く変色していた。一瞬、総虫歯になったのかと思うような衝撃を受けた。異臭はワンランクアップしていた。
看護師さんに聞いてみた。
「口腔ケアはしているんですけどね。なかなか思うようにお口を開けてもらえないのと、口の乾燥がひどくて出血を繰り返しているのとで、なかなか追いつかないんです。」
事実としては受け取った。
しかし、いろんなことが立て続けに起きて、私はだいぶ繊細になっていた(と、今なら分かる)。
「口腔ケアはしている」
それは事実なのだろうけれど、その言葉を先に出されてしまうと「防衛された」ように捉えられ、こちらの気持ちを受け取ってもらえていないように感じられた。私は尋ねたつもりだったが、私の言い方から看護師さんは「責められた」と捉えたのかもしれない。
私は、「心配ですよね」そのひとことが欲しかった。それだけなんだけどな…。そんな一言のために悶々とするほど疲れていた。
翌日面会に行くと、訪問歯科の先生が来ていた。他の患者さんを診るついでに、母のことを診てくれていたらしい。
「今日は保険証がないので、初回の無料健診として診させていただきました。毎日の口腔ケアの積み重ねしかないので、あとはスタッフさんに頑張ってもらいましょう。再来週診察に来ますので、そのとき書いていただきたい書類があります。診察に同席できますか?」
それはもちろんできるが、診察は再来週??来週ではないのか???
訪問歯科診療は月に2回なので、再来週とのこと。
分かるがモヤる。
とにかく疲弊度200%のため、ちょっとしたことで腹が立ってしょうがなかった。先週の私は、だいぶ冷たい、感じの悪い患者家族だったに違いない。
それから1週間。
スタッフの皆さんの尽力により、歯はだいぶ白くなってきた。
茶色の変色は、血液の色だったらしい。
飲食が全くできない母の口腔は乾燥しきっていて、それに加えてミオクローヌスのために顔面に力が入って歯で唇を傷つけてしまって出血し、雑菌が入り、膿んでしまい、それが乾燥によって固まってかさぶたになり、やがて剥がれてまた出血…を繰り返しているのだそうだ。一つ酷い膿があり、異臭を放っているのはその部分からだった。
口の中は干からびていて、保湿ジェルを塗っても塗っても追いつかない様子。スポンジでケアしている最中も、だいぶ注意していないと切れてしまうのだそう。
面会に行くたびに看護師さんが工夫してケアをしてくださっている様子を教えてくれた。今日は1週間早めて訪問歯科の先生が来てくださって処置をしてくださっていた。看護師さんが頼んでくださったらしい。ありがたい。
感じが悪かったかもしれないが、言葉にして良かった。
私にもできること、と言えば加湿器を置くことくらいだったが、加湿器があると僅かながら部屋の空気に潤いを感じ、臭いの感じ方も異なった。
最後に…
3連休明けに保険証がなかったのは、母の住所異動をしたため新しい保険証の送付待ちだったためである。以前お世話になっていた施設とホスピスは行政区が違うため、区役所で住所異動の手続きをしていた。こういった手続き関係も時間がかかり、地味に疲れる。何なら、大学病院に入院前は要支援1、それが数週間で要介護5状態になったため、介護保険の区分変更も申請中だ。
ついでに言うと、昨日まで次女の高校受験のための書類に母子で必死になっており、12月頭には高校生の長女が海外へ修学旅行へ行くため必要なものを買い揃えるなどしている。
それを3つのアルバイトの狭間にしているんだから、偉い。
私、偉いw
と自分で自分を労っておこう。