パリ逍遥遊 ブルゴーニュワインに合う究極の食材
「たゆたえど沈まず」な都市パリにいて手軽に楽しめるものといえば、やっぱり飲食。ワインはフランス各地から、その地のテロワールを見事に表現したワインが気軽に手に入る。また、さすが農業大国フランス。食材についても新鮮な海の幸から山の幸まで、簡単に手に入る。となると、ついついマリアージュ(ワインと食材のマッチング)に挑戦したくなる。
生牡蠣とシャルドネ、鶏肉とリースリング、ラム肉とシラーなどがよく知られているが、せっかくだから自分だけが知っている組合せを発見したいものだ。
とは言いつつ、ワインは無数にあるし食材も無数にあるので、それらの組合せは天文学的数字になる。なかなかベストな組み合わせは見つからず、肝臓の方が先にやられるのがオチだ。そこで、パリにいる間はブルゴーニュの赤に限定してチャレンジした。
ワインとマッチングする食材を探すには、「原産地・匂い・色」の法則がある。例えば、ワインと同じ土地で作られた食材を試す。ワインと同じ匂いがする食材を試す。ワインと同じ色の食材を試す。などが挙げられる。
絵画と音楽など異なる芸術作品が共感できるように、マリアージュについても、原産地・匂い・色などのベースが同じであれば、食材とワインという異なるものを通しても、真理に共感し、魂を震わせることができる。
ということで、ブルゴーニュの赤に合わせるヒントは、「フランス中東部・赤黒い果実香・ブルゴーニュレッド」となる。
しかし、探せど探せど、なかなか自分だけのマリアージュを見つけられない。これは合う!と思っても、ネット等で調べると既に誰かに発見されている組合せなのだ。そんな時に、自分の結婚式を日本で挙げるべく、一時帰国することになった。その際にも、マリアージュ探求のために、お土産と言う名の自分で消費するワインを、フランスから何本か持ち帰った。(結婚式に集中しろ)
さて、一時帰国中、伊豆に旅行に行った際のこと、一般的なスーパーで由比の名産「生の桜エビ」が売られているのを目にした瞬間、ブルゴーニュの神(赤神。なお、白神もいると思う)が私の中で叫んだ。「この食材の色は見事なブルゴーニュレッドじゃないか!」(結婚式に集中しろ)
ダメ元で生桜エビを買い、赤ワイン(GEVREY-CHAMBERTIN 1ER CRU AUX COMBOTTES)に合わせてみたところ、口の中で両者が溶け合う。シャンベルタンの硬質なアタックが、桜エビの塩味と握手、ピノ・ノワールの芳醇な腐葉土が桜エビの甘さと抱擁、そしてブルゴーニュ特有のなめし革風の余韻が桜エビのキチン質を優しく包み込むのだ。
ブルゴーニュと由比とでは10万kmも離れているが、偶然か必然か、見事な結婚であった。しかし残念かな、この究極のマリアージュを再現するには数々の困難が待ち受けている。まず、ブルゴーニュワインは旅をしないワインと言われているほど、動かすと傷みやすいワインなのだ。また、生の桜エビも日持ちが悪い。釜ゆでの桜エビでもマリアージュを試したが生の時ほどの感動は得られなかった。
したがって、このマリアージュを堪能するためには、
1.自らブルゴーニュ(またはパリ)でワインを購入。
2.直ぐに帰国。
3.由比へ直行。桜エビを購入。
4.その日のうちに、両者を食す。
というトンデモナイ所業を行う必要がある。
10万kmも離れた地で、繊細な両者が期せずして結婚したことは、まさに奇跡なのだ。