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パリ逍遥遊 サロン・ド・ヴァン

ふと時計に目をやると、まだ昼前である。
通常、試飲となると少量を口に含み、備え付けの吐器に捨てるのだが、ワインの一滴は血の一滴とか何とか。吐き捨てるなどという罰当たりなテイスティングはしない。特にシャンパーニュは泡の強さからくる喉越しも大切だから、ついつい胃に入れちゃうよね、うんうん。とか言って、口角泡(ワイン)を飛ばしながらテイスティングを繰り広げて、はや2時間が経過。それでもまだ昼前か。

ここはパリ、Porte de Versaillesで開催されているワインのテイスティング会場だ。その名も、サロン・ド・ヴァン。
サロン・ド・○○とは、いわば見本市や展示会みたいなもので、サロン・ド・ヴァン(ワイン)の他にも、サロン・ド・ショコラ(チョコレート)、サロン・ド・アグリカルチュール(酪農品)など、その種類は100を超える。フランス人は何でもサロンにしたがる性格なのか、パリに住んでいると様々なサロンのチャンスに恵まれる。
それにしても、何十回もテイスティングをしていると、たとえ口に含んだものを吐器に捨てたとしても、だんだんと感覚器官が鈍くなってくる。プロは一日に百回とか二百回も行うのだから大したものだ。誰か飲んでも酔わない方法を教えてくれないだろうか、と思ったものの、会得した御仁は今頃(おそらく肝臓の病気で)死んでいるだろうから教わることもできないか、と納得して次のワインブースへ。

サロン・ド・ヴァンの正式名称はSalon des Vins des Vignerons Independants(独立ワイン醸造家のワイン展示会)で、いわば個人醸造家の集まりである。展示会を主催するVignerons Indepandants de Franceは、1976年に南仏で結成され、今日ではフランス全土における32の部門連盟及び10の地域連盟に属する約7000の独立系ワイン醸造家からなるワイン組合である。
毎年出展するドメーヌの数は変わるが、大体200~300の醸造家が、赤・白・泡それぞれ数種類のワインを持ってくるわけだから、その数は肝臓を幾つ用意しても足りないだろう。

個人醸造家の集まりなので、モエ・シャンドンとかボルドーの五大シャトーなどの有名ドメーヌは参加しないが、北はアルザスから南はラングドックまで、ここに来ればフランス国内のあらゆる地方のワインが試飲できる。仕事の都合もあり普段はなかなか行けないコルシカ島やジュラ・サボアのワインなど、珍しいワインは本来こちらから訪ねるべきだが、向こうから来ていただき大変ありがたい。
サロン・ド・ヴァンでは、自分のお気に入りの一本が手頃な値段で見つかるのはもちろん、ワイン醸造家と直接話すことができる(フランス語だけど・・・そこは店と客の関係なので、みんな簡単な言葉で話してくれる)。単にテイスティングをするだけではなく、醸造家の思いを聞きながら飲めば、ワインの違った側面を垣間見ることができる。

今回のサロンで見つけた、筆者だけのワインは・・・・秘密。
他人のご託宣を聞くよりも、自ら体験して自分だけの一本を見つけるのがサロン・ド・ヴァンの醍醐味だろう。ワイン評論家やワイン本のオススメの一本ももちろん良いが、自分だけが知っているインディーズバンドや地下アイドルみたいな一品を見つけてみてはいかがだろうか。きっとお気に入りの一本が見つかるはずだ。


サロンドヴァンの一本

秘密とは言ったものの、今回見つけた最高の一本。Michel MagnienのGevrey-Chambertin Premier Cru 2011。なんだかんだでジュブレ・シャンベルタンに惹かれてしまう。

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