13坪の本屋の奇跡「闘い、そしてつながる」隆祥館書店の70年 木村元彦
商店街にある生家の隣に、田舎には似つかわしくないりっぱな書店がありました。二階建てのその書店は天井まで3メートルはある棚に本が隙間なく詰められていました。私は小学生の時から漫画を立ち読みし、高校生になると文学書や思想書を買い求めました。足を踏み入れる度にワクワクしました。
出版不況が叫ばれ、電子書籍やネット通販の普及で町の本屋さんの廃業が相次いでいます。そんな苦境にあって、書籍別による売り上げで大型書店を抜いて日本一にもなった本屋さんが大阪市内にあります。谷六の隆祥館書店です。
この本は町の本屋さんの在り方を示してきた小さな書店を描いたノンフィクションです。
主人公は創業者、二村善明さんと、その長女で現在の店主、知子さん。二代にわたり流通・取引の慣行と闘い、地域の活字文化を守り育ててきました。本の問屋である二大取次のトーハンと日販の弊害。送返品の同日精算という同日入帳問題、書店の坪数によって取次と出版社が協議して配本数が決められるランク配本、取次から一方的に送られてくる見計らい配本。
小さな本屋を守るために親子は是正に挑戦していきます。
知子さんは約1500人のお客さんの顔と嗜好を把握し、その人に合った本をすすめます。考え抜いた選書、そして「ヘイト本は絶対におかない」という信念を貫き、2011年から「作家と読者の集い」を続けています。
12歳で始めたシンクロナイズドスイミング(当時の呼称)で二度、日本代表にもなりました。高校生の時に自分の限界を感じて日本シンクロナイズドスイミングの母、そして鬼コーチと言われる師の井村雅代さんに「辞めたいんです」と言うと、一喝されました。
「あんたの限界はあんたが決めるんやない、私が決める!」
この言葉いいですね。思わず「七帝柔道記」の和泉主将を思い出しました。
知子さんはこの「敵は己の妥協にあり」を座右の銘にしては幾度もの苦境に立ち向かいます。
先日、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の拙文が産経新聞の「ビブリオエッセー」に載り、図書カードをいただいたので本を買いに行きました。知子さんにそのことを話すと、「実は私、選考委員のオファーがあったんですが店が忙しいのでお断りしたんです」。彼女にとって、直にお客さんとふれあい、喜ばれるのが何よりも優先するのだと感じ入りました。
自分という存在が世界につながる感覚、それを最初に教えてくれたのは田舎の書店でした。今はその書店もありませんが、直木賞作家の桜庭一樹さんが大学進学のために上京するまでそこで立ち読みしていたことを彼女のエッセーで後年知りました。