[1分小説] レッテル(上)14歳
「ねぇ先生。私、先生のこと好き」
中学生の時だった。
週に一度自宅に来る、家庭教師の男の先生に、人生で初めて自分の気持ちを伝えた。
ゆうや先生 ―という名の大学生だった― は、
私の胸の内を聞くと、目元だけで薄っすらと微笑んで、数秒の間を置き「目を瞑って」とそっと言った。
戸惑いながら目を閉じると、続けて先生は「手を出して」と囁いた。
「せ、先生・・・?」
右手をそろりと前に差し出しながら、自分の顔が紅潮していったのを覚えている。
5分前に新しく習ったばかりの連立方程式の解き方と、気恥ずかしさと、いま自分の身に起きようとしていることへの不安と期待がごちゃ混ぜになって頭を駆け巡る。
(何?どうしよう・・・。)
と、ふいにヒヤリとしたものが右手の掌に触れた。その接点が、一本の線となって移動していく。
(え・・・?)私は思わず目を開けた。
掌を見ると、そこには、
丸付け用の水性の赤ペンで書かれた、大きな花丸があった。
「先生、これは・・・?」
ぽかんとしてゆうや先生を見上げると、
「きみはユーモラスだね。」にっこりと笑って、「だから、花丸。」そう言った。
中学2年の、夏休みを目前に控えた、汗ばむ時期だったと思う。
「ユーモラス」という言葉と右手の「花丸」を引き換えに、真依の
人生初の告白が風に舞うように散った瞬間だった。
*
<7年後——>