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21 訪問リハビリの日常 【知らされない未来】

「訪問リハビリの日常」は、私の体験をもとにしたフィクションです。登場人物は架空の人物であり、実際の出来事とは異なります。


訪問リハビリの現場では、さまざまなご家庭の事情に触れます。

今回は、難病のご主人を介護する80代の奥様のお話をしたいと思います。


奥様は、何年もの間、献身的に難病の旦那様の介護を続けてきました。「なるべく家で過ごしたい。」と思っている旦那様の希望で、現在はデイサービスやショートステイ、訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ——色々なサービスを活用しながら、なんとか自宅での生活を支えてきました。

しかし、奥様はもう80代、ご自身の体力・気力、そして身体の限界 を感じるようになり、「このままでは共倒れになってしまう」と不安を抱えていました。最近は、介護の最中に 「自分の腰のほうが心配になってきた」 とおっしゃることも増えました。

そこでケアマネと相談し、約1年前から 特別養護老人ホーム(特養)への入所申し込みを、旦那様には内緒で行っていました。


そんなある日、私が訪問リハビリに伺ったとき、いつもは室内で待っている奥様が 、玄関先で待ち構えていました。
「どうされたのかな?」と思いながら近づくと、奥様は小さな声で、

「まだ主人には伝えてないのですけど、ついに主人の特養の入所が決まりました。」

とおっしゃいました。

ご主人は「最後まで家で過ごしたい」と希望しており、自宅での生活がいつまでも続くと信じています。そのため、奥様は 「入所を伝えることで、精神的に落ち込んでしまうのではないか」 と心配し、なかなか言えずにいるのだそうです。

いつまで旦那様に特養入所のことを秘密にしておくのか気になりました。そして結局は、旦那様は最後まで特養に入所することを知らされることのないまま、デイサービスに行くと信じて乗った車で特養にそのまま入所する事になったようです。

特養入所後は、訪問リハビリに行くことはないため、
特養入所時の様子を含め、その後のご主人が施設でどのように過ごしているのかは分かりません。

しかし、「家に帰れる」と信じていたのに、突然知らない場所に連れて行かれる というのは、想像以上に大きなショックではないかと思います。

以前の話ですが、施設のスタッフから
「たまに本人に知らさず施設入所させる家族がいるけど、最初の対応が本当に大変!!」
とかなり困っていたことを思い出しました。本人が知らないままの施設入所は、本人もですが、対応する施設スタッフも、どちらもかなり大変そうです。


私は訪問リハビリのスタッフのため、本人へ本当のことを伝えたい気持ちになりますが、ケアマネと奥様が決めた事に口を挟む立場でもありません。

だからこそ、ただ傾聴することしかできないのが歯がゆく感じることもあります。

ご主人が、「もし施設入所を知ったら、どう思うのだろう?」
それを考えると、なんとも言えない気持ちになります。

今回の経験を通し、
「自分が介護を受ける立場になったら、どうしてほしいのか?」
「介護する側は、どこまで頑張れるのか?」

このような話し合いを 本人が元気なうちからしておくことの大切さを、改めて感じました。

最近では 「人生会議(ACP)」 という言葉もよく聞かれるようになりましたが、
こうした話し合いは 介護が必要になる前の段階からしておくべきこと なのかもしれません。

そして、「エンディングノート」 も、やはり重要だと感じました。


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春野 さとみ【理学療法士×ワーママ】
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