口コミで人を動かす。「書いて届ける」ライターの原点
よいものを見つけたら、自分から声をあげて伝えよう。
『20代で得た知見』を読んでそう心に決めた。
だが、実践となると思うようにいかない。
たとえば初めての飲食店に入り、そこの料理をとても気に入ったとき。
帰り際に「おいしかったです。また来ます」とでも一言添えたいのに、言えない。
言おうとしても言えない。
それを言う間、スタッフと自分が一瞬その場に留まることを考えるだけで、恥ずかしさを覚えるのだ。
いつも去りながら小声で「ごちそうさまでした」と伝えるのが精一杯。
だから私は、私なりのやり方で「よい」と声をあげることにした。
口コミをはじめたきっかけ
『いまは食べログやぐるなびなどのグルメ媒体ではなく、Googleマップの口コミから飲食店を選ぶ人が増えている』
前職で居酒屋の店長を勤めていたとき、このように上司から共有をもらった。
たしかに私も実際、飲食店を選ぶときはGoogleマップを使う。
まずは地理的に近いところをGoogleマップでピックアップして、星の数や口コミを見て評判の良さそうなところを2、3件絞る。その後食べログなどの媒体を見てゆっくり検討する。
「居酒屋」というキーワードで上位表示されないと、そもそも選ばれない。
これからはGoogleマップの口コミに力を入れていくべきだ、という本社の方針にも頷ける。
口コミの施策を進める中で、上司から「エビアンって口コミやってる?」と聞かれた。
「口コミやるとね、自分のローカルガイドレベルが上がっていくんだよ。せっかくいろいろな場所に旅行行ってるんだし、やってみれば?」
ローカルガイドレベル(Googleマップに口コミをあげると、投稿数や閲覧数などがポイントとして加算されて、レベルが付与される仕組み)はさておき、お客さんに「口コミ書いてください」とお願いする側が口コミを投稿したことがないのは、少々まずい。
行ったことのある近くのお店からポツポツと、口コミを書き始めることにした。
どうせ書くのであれば、元「飲食人」のプライドを持って
口コミはだいたい、「すっごくよかった」か「すっごく酷い目にあった」ときにしか書かれない。
飲食店の感想を共有するだけなら、わざわざ口コミを書かなくてもSNSで事足りるからだ。
私はいい店の口コミを書くときに「何を伝えればこの店の魅力が伝わるか」「この店を調べるお客さんは何を知りたいのか」考えるようにしている。
せっかく紹介するのであれば、ただの感想で終わらせたくない。
それは自分が「よい」と思う店にもっとたくさんの人が来てほしいという想いが8割、残りの2割はかつて「飲食人」だったプライドだ。
口コミを書くとたまに、書いた店側から返信をもらうことがある。
定型分だとしても「届いた」気がして嬉しい。
口に出したかったことばを、代わりに文字で伝える
「店長、今日もおいしかったよ!」
「ありがとう。また来るね!」
今までたくさんのお客さんから、帰り際に温かいことばをいただいた。
帰り際の一言ほど、嬉しいものはない。これは経験済みだ。
しかし今改めて、帰り際にスタッフに声をかけることがどれだけ勇気のいる行為か、それをしてくれたお客さんがどれだけすごいかを感じる。
自分自身は恥ずかしくて、それができないのだから。
だから私はせめてものお返しで、退店した後口コミをそっと投稿する。
口で伝える勇気がないから、文字でどれだけの人を動かせるか勝負する。
これって実は、ライターの原点ではないだろうか。