見出し画像

後悔のかたち

「今までどんなアルバイトをしてきたか」という話題が好きだ。今の仕事につながっていたり、逆にギャップがあったり。お互いのことを知るきっかけになる質問の一つだなと思う。

話を聞いてみると、一つのアルバイトに集中してきた人もいれば、いろんな職種を経験している人、今と全然違う仕事をやっていた人もいる。この人のこういうスキルは、そのバイトの経験が生きているのかなと妙に納得できたり。意外な職種を経験している人には、やってみたいと思った理由を聞いてみると人柄が見えたり。いろんなパターンがあっておもしろい。

私はというと、大学4年間、塾講師のアルバイトを一貫して続けていた。私が教師だったと知っている人は、想像どおりなのかもしれない。でも、バイトの話をするときは大体いつも「本当は他のバイトもやってみたかったんだよね」と、後悔を口にしてしまう。

実は大学4年になる直前までは、塾講師のアルバイトは3年で区切りをつけ、最後の1年は好きなアパレルブランドの販売スタッフとして働きたいと思っていた。

当時は将来的に教職に就くと思っていたからこそ、「教える」以外の仕事を経験したい。そう思っていたけれど、最終的には長く受け持ってきた生徒を最後まで教えたい気持ちと責任感がまさった。生徒を悔いなく指導できたので「4年続けてよかった」とは思いつつ、社会に出てからもずっと引きずるくらいには、心残りはある。

そんな後悔をほんのりと残したまま、いろんな仕事や働き方を経験し、会社員のコピーライターに行き着いた私は、30歳にして思いがけず、販売スタッフの仕事と深く関わる機会を得ることになった。

今、私が働くインテリアブランドでは、全国の店舗に販売スタッフとして活躍する人たちがいる。入社当初、研修の一環で複数の店舗をまわり、販売スタッフへの仕事に関するインタビューや、お客様とのコミュニケーションを経験させてもらった。

日々、自分は客としてたくさんの販売スタッフの方に関わっているけれど、一人一人の努力や、何を考えて接してくれているかまで思い至ることは少ない。一度は「やってみたい」と思っていた私も、販売の仕事をする自分を想像してみたことがあるくらいで、解像度は低いものだった。

実際に販売を経験したわけではないものの、今回その姿を間近で見ながら話を聴かせてもらうなかで、今まで想像し得なかった部分が見えるようになった。以前よりは大きく「販売職」の解像度を上げられたような気がする。

特に印象に残ったのが、ある店舗の副店長と交わした会話だ。正社員の販売員として10年近く働いている彼は「僕、◯年のカタログが特に大好きなんですよ」と、笑顔で語ってくれた。そのとき私は、お客様はもちろん、彼のような販売スタッフにも「大好き」と言ってもらえるものを作りたいと心から思った。

私も同じ組織で働いているけれど、実際にお客様と接しているのは販売スタッフだ。だからこそ、彼らが誇らしく思いながら顧客と向き合えるようなものをつくりたい。そして、彼らが販売のプロとして努力しているように、私もプロとして努力を続けないといけない。

当然と言えば当然だけれど、実感を通してそこがリアルに想像できるようになったことは、自分にとって大きな価値のある経験だったと思う。「今の会社に来てよかった」と、強く感じていることの一つだ。

おかげで「販売のバイトをやっておけばよかった」という後悔も薄れた、と言って結びたいところだけれど、これに関しては逆なのが本音。憧れが強まって、むしろ「やっぱり一度やっておけばよかった……」という思いが強くなったところがある。多分今後もバイトの話になるたび、相変わらず後悔を口にしてしまうんだろうな。

でも、今の私にとってこの後悔は、コピーライターとして努力する原動力に変わっているような気がする。後悔も抱え続けるうちに、かたちを変えることがあるらしい。尊敬する販売スタッフたちに、彼らが日々接している人たちに、届けるべきものを届けられるように。私は私が選んだ自分の役割を、しっかりと果たしていきたい。

いいなと思ったら応援しよう!

Saaya|ライター
最後まで読んでいただきありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。いただきましたサポートは、自己研鑽やライター活動費として使用させていただきます。