中村文則「カード師」
中村文則さんの最新作「カード師」を読んだ。
感想文を募集していたので、紹介と感想を。
=あらすじ=======================
占い師と闇カジノのディーラーで生計を立てる主人公。
孤独な生い立ちから、他人も占いも信じない彼は、
属する組織から、1人の男の顧問占い師になるように命じられる。
その男は人を殺すことも厭わない資産家だった。
男の真意、組織の目的が分からないまま、
主人公は理不尽に巻き込まれていく。
悪魔・ギリシャ神話・魔女狩り…たびたび挿入される暗示的なモチーフ。
緊迫したカジノシーンの先にある結末は―――。
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中村文則作品は初めてで、重くて暗いイメージがあって、
きつい場面が多いんじゃないかと思っていたけど、
全然そんなことはなかった。
作品を読み終えた上での感触は決して暗くない。
むしろ決して明るくない世界をどう生きようか、
必死に考えている作品なんだなと感じた。
前半はたんたんと、まさに表紙に描かれているカード師の絵のように、
色の無い世界で出来事が進んでいく。
如何様ディーラー・個人鑑定のタロット占い師・謎の組織に属す男、
煽情的な肩書を複数持つ主人公は、自分の人生に引いているように見える。
孤独な少年時代での悪魔・ブエルとの対話も、
どこか冷静に受け入れているように感じた。
それが中盤のポーカーで
自分のすべてを賭けて勝負することで、物語が一気に熱を持ち始める。
ひとりひとりと対峙して戦う姿は、
次々ピンスポットが当たるショーを見ているような高揚と緊張感で、
前半とのコントラストもあってすごく興奮した。
ディーラー・占い師として思うままにカードを操っていたカード師が、
偶然を引き当てようと、カードに賭ける姿は、
そのまま、彼が自分の人生と向き合い始める姿に見えた。
その後、作品の世界はオウム・震災へとぐっと視点が寄り、
現代の日本のコロナ禍へとつながるラストを迎える。
「君たちは本当の意味で絶望することなんてできない
だって明日何が起こるか分からないんだから」
だからカードをめくり続ける=生きるしかない、
というブエルのメッセージは
実際に疫病がはびこり、先が見えない今を生きる私たちに
そのまま贈られている言葉だと思う。
重く苦しい毎日と向き合い続ける全ての人に、おすすめ。