小人作家 -後編-
(前編はこちら↓↓)
とにかく大声で、噛まないように、必死でネタに臨んだ。周りは見えていないが、客の笑い声が聞こえた。
これは、いけるかもしれない。そう思い審査員席を見てみると、審査員の上で、小人が舞っていた。
小人は何やら粉のような物を撒いていた。その瞬間、とんでもない罪悪感が俺に襲ってきた。
「ありがとうございましたー。」
会場は拍手に包まれた。ああ、もう終わったんだ。そう思うのも束の間、点数が表示された。
92、94、95、96、79、93、95、合計644点。結果は、4位。俺たちは、最終決戦に行くことができなかった。
1番低い点をつけた審査員からは、
「あなた方の漫才は、人間味がない。個性が全くない。客席は爆笑だったが、多分お茶の間は微妙な反応だと思う。」
と酷評された。
俺はすぐさま小人を呼び、あの粉は何だったのか尋ねた。小人はこう答えた。
「あれは笑い粉です。安心してください。私のことはあなたしか見えていませんから。」
「何だよそれ。」
「笑い粉をかけることでお客さんはもっと笑いようになるんです。」
「ふざけんな!!!」
ここが楽屋であることを忘れて、叫んでしまった。
周りがざわついている中、タケシが俺を外に連れていった。
「どうしたんだよ、ヒロシ。確かに負けたのは悔しいけどさ。」
「……」
「また来年頑張ろうぜ。」
「……すまん。」
そこから俺は、小人のことをタケシに全て話した。タケシは初めは笑っていたが、俺の真剣な表情を見て信じてくれた。
「俺は、みんなを騙してたんだ…お前も。本当にすまない。」
タケシは少し黙ったあと、こう呟いた。
「小人作家…ね。いいんじゃない。」
「……え?」
「別にいいと思うけど。俺たちの『座付き作家』ってことでしょ。他にもいるんだし何の問題もなくない?」
「いや、いや待ってくれ。聞いてたか?あいつは笑い粉で客を笑わせてたんだぞ!?」
「それなんだけどさ、79点つけた審査員いたじゃん。あの人には粉がかかってなかったからウケなかったの?」
確かに、あの審査員にも粉はかけていた……。粉の効果が効かない人もいる?
「あのさ、俺としては、ヒロシが小人の言うことを聞いたのが意外なんだよ。お前プライドが高いから。それでも売れたいと思って言うこと聞いたんだろ。むしろ尊敬するよ。粉がどうとか正直どうでもいいし、謝る必要ないんじゃね?その小人が勝手にやったことなんだし。」
「タケシ…。」
「それに、その小人のおかげでここまで来れたわけじゃないって。抑揚とか間とか表現とかは俺たちの力だろ。」
ここまで来れたのは、俺たちの力。タケシのこの一言で、俺はこれまでの自分に自信が持てた。
俺は小人に座付き作家になってもらうようお願いした。
「これからもネタを作ってほしい。でも、笑い粉だけはやめてくれ。」
「ええ、もちろんです。笑い粉もやめますね。」
俺たちはここからだ。「漫才キング」の影響で、仕事もたくさん増えた。
この相方で、本当によかった。
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