虹の階段
男は階段を上りきった先にある「何か」を手に入れるため、何日も、何ヶ月も階段を上り続けた。
そこには何があるのかはわからない。しかし、何人もの人間が、歓喜の表情で上から降りてくるのを男は見てきた。
彼らのようになりたい。その一心で階段を上り続けた。
はじめは真っ白な階段だったが、途中からオレンジ色、黄色と変化していった。何色かを経て、今では紫色の階段に足を置いている。
男が上の「何か」を諦めきれない理由がもう一つある。
黄色の階段を上っている時だった。男は、端で倒れ込んだ男を見つけ、大丈夫かと声をかけた。
倒れていた男は息が上がっており、絶望した表情を浮かべながらも、目線は上を向いていた。
この程度の体力でなぜ挑戦したのだろうと不思議に思っていると、倒れていた男が彼に対し、
「俺はもう無理だ。兄ちゃん、俺の想いも受け取って、絶対上に行ってくれや。」
と伝えてきた。
赤の他人であるのには変わりないが、同じ夢を志した仲間である。男は、そんな彼の言葉をパワーに変え、これまで歩みを進めてきたのだ。
紫の階段を歩いてどれほど経ったのだろう。これまでなら、もう次の色の階段になっていてもおかしくない。
ということは、ゴールは近いのかもしれない。
………そう思った矢先、男の目の前に赤色の階段が現れた。
ゴールはまだ先なのだ。そう思うと、男は急に、上に行くのを諦めたくなった。でも、ここまで来て諦めて良いのだろうか。
後ろを振り返るのが怖かった。ここまで来たら、行くしかない。
男は頬を2回叩き、再び腿を上げた。
しばらく上っていると、後ろからすごい速さで階段を駆け上がる男がやってきた。
その男はあっという間に男を抜かしていった。彼は階段を一段飛ばしで、まるでウサギのように軽快に上っていった。
男はウサギ男を見てまた絶望した。上の「何か」を掴むのはあんな人間なのかもしれない。俺は、掴めないのかもしれない、と。
……でも、ここでやめたら、黄色の階段で出会った男にどう顔を合わせれば良いのだろうか。あんなウサギ男に負けてたまるか。俺はあいつよりこの階段のことを知っている。
男は自分を奮い立たせた。
夢は、地道に掴むものなのだと、自分自身を納得させた。
しばらく上っていると、ついに次の色の階段が見えた。
その階段の色はオレンジ色だった。
はじめに見た色と同じ階段だった。男の額には、嫌な脂汗が流れて止まらなかった。
ふと階段を振り返って見てみると、赤色だったはずの階段はキレイな白色をしていた。
事態を飲み込めずにいると、上の方から誰かが降りてきた。
それは、黄色の階段で倒れていた男だった。
その男は彼を見るなり、悲しそうな顔を浮かべてこう言った。
「ああ、お前もか。結局俺たちは、上には行けねえんだよ。」
その男を無視して階段を上ろうとすると、その男は彼の肩を掴み、
「降りよう。」
とだけ言った。
男はその瞬間、涙が溢れ出た。これまでの努力はなんだったのだろう。あのウサギ男には叶えられて、俺には叶えられないのか。
悔しさと不甲斐なさが同時に襲ってきて、足が上へ行こうとしなかった。
階段を降りると、すぐに地上に戻ってくることができた。
地上の土を踏んだ瞬間、男は、絶望が急に晴れた感覚がした。
周りを見渡してみると、これ以外にも階段がたくさんあることに、男はようやく気づいたのだ。
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