一等賞のお菓子
私のおばあちゃんは、よくお菓子をくれる人だった。
うちは二世帯住宅で、子どもの頃はおじいちゃんおばあちゃんにもお世話になっていた。そのため、一人っ子ではあったけれど寂しくなかった。
徒競走で1位になったとき、テストで100点を取ったとき、人生ゲームで1番になったとき。
どんな些細なことでも、私が何かの一等賞になると、おばあちゃんは必ずお菓子をくれた。今思うとかなり単純な子どもなのだが、私はそれがとても嬉しかった。
けれどたまに、一等賞じゃないのにお菓子をくれることもあった。「まあええやんか」なんて言いながら、半ば強引にお菓子をくれる。そんな、おおらかで優しいおばあちゃんだった。
上京して数年。おばあちゃんが亡くなったと連絡を受けた。突然の訃報だったため、悲しいと感じる暇が無い位、各種手続きを行うのにバタバタした。
葬式も終えて一息ついた夜。久しぶりの実家。お菓子をつまみながら母とテレビを観ていた。
義母の葬式後とは思えないほどの明るいトーンで、母は話し始めた。
「ねえ、お菓子といえばさ、覚えとる?昔おばあちゃんにお菓子貰ってたの。」
「あー、覚えてる覚えてる。高そうなクッキーとかケーキとかね。」
「そうそう。でも、最初は洋菓子やなくて和菓子やったのは覚えとる?」
「え、そうだっけ。」
「やっぱ覚えとらんかー。小3くらいまでは和菓子をあげよったんやけど、あんたがおばあちゃんに『和菓子なんかいらん!』って言ったから、洋菓子に変えよったんよ。」
「え、全然覚えてないわ。私めっちゃひどない?」
「まあ、おばあちゃん毎日のようにあげてたしなあ。単純に飽きたんやろうね。で、それ以降わざわざ遠くの洋菓子屋さんに買いに行ってはってん。」
「マジ?」
「マジ。」
「なんかめちゃくちゃ申し訳ないわ。気遣わせてたんやな。」
「まあ、子どもはその気遣いにはなかなか気づかんもんよ。無償の愛ってやつやな。」
そう言うと、母は席を立って和室へ向かった。
嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちになった。
もっと早く気づいていれば、ごめんなさいと言えたのだろうか。
もっと早く気づいていれば、ありがとうと言えたのだろうか。
机に置いていた個包装のクッキーを手に取り、心の中で「おばあちゃん、ありがとう」とつぶやいた。
ビリッと個包装を破ると、そこにはクッキーではなく、小さな最中が入っていた。
あれ、袋には「クッキー」って書いてあるのにな。クッキーっていう商品名?それとも工場のミス?
あまりの予想外の展開に戸惑いながらも、思わずクスッと笑ってしまった。
おばあちゃん、今日は私、一等賞じゃないよ。
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