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遠い昔 ことばがなかったころの〈10〉

石さん、
お久しぶりです。

今年は前へ前へと進もうと、
まっすぐ1歩足を出して、
それから頑張って、
もう1歩出して。
そうしたら、
何やら頭の中がいっぱいで、
背中にズシっと重みがかかり、
肩はガチガチになり、
目の筋肉はヨロヨロになり、
不安という名前のカタマリが、
胸につかえて…
それで、
1歩下がりました。
こりゃいかんと思って、
また前に進もうとして、
考え込んで…
また1歩下がりました。
そして…
立ち止まりました。
今日はまっすぐ歩かずに、
あの角曲がって、
石さんのところへ来ました。

やれやれ、
まだ何も進んでいないのです。
石さん。
そんな日に、
石さんのところに
来てしまいました。

すると、
聞いていた石さんが、
何やらもごもごとしました。
「長々と、わけがわからん」
そう言われそうで、
しまったなぁと思っていると…

石さんが言いました。 

「計算に時間が…申し訳ないですなぁ…
……………
1歩進んで、もう1歩。
そんでもって、1歩下がって、
それからそして、
もう1歩下がって。
足を出したり下がったり、
一緒に思い浮かべてみたら、
この方がずいぶんといいですなぁ。
わたくし、足がないですけれども。
まっすぐも、
1歩進む、のようで、
まっすぐだけが、
1歩進む、のようで、
ですけれども、
曲がるも1歩進む、
という気もしないこともないので
……………
曲がるのに、
足を違う向きに1歩出しますからなあ…
立ち止まって、そして…
はい、今日。
あの角曲がってここまで、
ずいぶん歩いて来られたのではないですかな?
時々はまた、
気が向いたら立ち止まって、
あの角曲がっていらっしゃってください。
今後いらっしゃる時は、
歩数を数えながら来てくださいますかな」


絵はがきと詩〈2017年冬〉

きみは
背負ったかごに
大好きなツバキを
入れて
いろんな日々を
ずっと歩いて

来る日も 来る日も
前を向く

ごきげんよくして
くたびれもして

たのしい日も
かなしい日も
軽い日も
重い日も

ずっと歩いて

来る日も 来る日も
前を向く

美しい花を
咲かせるため
いつかやって来る
来る日のため

来る日も 来る日も
前を向いて
ずっと歩いてきた

時々
背中のかごを
思い出して
ほんとうは
毎日
思い出して

ふいに
咲いている
きみの
白いツバキ

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