そもそもUXリサーチとは何なのか
プロダクトマネージャーとして見よう見まねでUXリサーチを始めてから、UXリサーチって面白い!とハマった私はメルペイにUXリサーチャーとして転職しました。
特にここ1年間はUXリサーチをがっつりやってきて、自分の中でUXリサーチという言葉の定義が広がりアップデートされてきたので現時点での私個人の定義をまとめてみたいと思います。
UXリサーチはUXデザインの一手法
UXリサーチは、大前提としてUXデザインの一手法です。UXリサーチを通して解決すべき問題を定義したり、仮説を検証したりを繰り返すことでユーザーにより良いサービスや体験を提供することを目指します。では、UXデザインとは何なのでしょうか。ALL about UXにはたくさんの定義が載っていますが、私は以下のものがしっくりきています。(エレガント!?とかツッコミどころはあるけど)
「企業やサービスあるいは製品とのインタラクションのすべての側面」とあるように、アプリやwebサービス上での体験だけでなく、例えば配送やリアルイベントなどのオフラインでの接点なども含まれます。
また、「所有する喜びや使う喜びを感じるような製品を創る」というのはサービス使用中に限らず、使用前から使用後まで含めた時間軸で一貫した体験を届ける必要があるということです。例えば良いブランドイメージがあるサービスは所有する喜びを高めてくれるでしょう。不具合があったときにカスタマーサポートに丁寧な対応をしてもらえたら、使う喜びは増していくかもしれません。つまりUXデザインの対象範囲にマーケティングやカスタマーサポートなども含まれるということです。それゆえに、一貫した体験を提供するためにプロダクト開発部門だけでなく、他部署と「多様な取り組みをシームレスに結合しておく」必要があります。
つまりこの定義に沿うならば、UXリサーチの範囲はオンラインからオフライン、マーケティングからカスタマーサポートまで幅広いのです。
なぜUXリサーチが専門職として確立しつつあるのか?
前述の通りUXリサーチはUXデザインの一手法ですが、何をつくるべきか?もしくは作らないべきか?を決める重要なインプット情報になります。インプットの質が悪ければ、いかにプロセスどおりに進めてもアウトプットも良くならないでしょう。だからUXリサーチは重要だと思います。UXリサーチにはいくつもの手法があり、かつ社会学、人類学、心理学、工学など幅広い学問的なバックグラウンドと紐付いており、広く深い知識と専門性が求められます。また、地域や民族などで生活背景や価値観が大きく異なる文化圏では、その分多くのUXリサーチを行う必要があり人的コストがかかるでしょう。それがアメリカなどでは専門職として早くから確立している背景なのかもしれません。
メルペイでのUXリサーチ定義
ちなみにメルペイでは、同僚とディスカッションしながらJob Descriptionに以下のように定義しました。
UXリサーチを行うにあたり、そもそもに立ち返って「本質的な問いを立て」ることを大事にしています。例えばリサーチしたいと相談をもらったとき、鵜呑みにするのではなく本当に明らかにすべきことは何なのか?を壁打ちしながら問いをブラッシュアップしていきます。また、依頼されたリサーチを請け負うだけでなく、自ら問いを投げかけて動くことも重要です。
私がどうしても入れたかったのは「事業の意思決定にコミットします」という言葉でした。これは一機能やUIだけでなく限らず、もっと影響範囲を広げて事業目線で考えたいという意志を込めて。
「サービス全体を見渡し中立的である」というスタンスも大事にしており、大きく複雑になっていく機能や体験を一貫して見る立場として、部分最適でちぐはぐな体験が起こっていないかを目を配る必要があります。プロダクトマネージャーはビジネス指標を、エンジニアは技術的なことを考える必要があると思いますが、UXリサーチャーは「お客さまにとって何が最適か?」を考え、あえて三権分立のようにすることで議論を重ねて落とし所をみつけていくことができます。
UXリサーチの段階
事業会社のインハウスで行うUXリサーチにはいくつかの段階があるように思ってます。
目的に応じた適切なリサーチデザイン
UXデザインのプロセスをダブルダイヤモンドで考えると、UXリサーチの種類は大きく2つに分かれます。
この①探索型リサーチと②検証型リサーチといったフェーズと、それぞれの目的に応じて、適切なリサーチ手法を選び実行しUXデザインプロセスを推進するのがまずこの段階です。UXリサーチを取り入れる場合、この①探索型リサーチと②検証型リサーチどちらかから入っていくことが多いように思います。
開発におけるリサーチプロセスのデザイン
開発プロセスに応じて、いつどういうリサーチが必要か?を先読みし仕組み化するのが次の段階です。例えばウォーターフォールならば、リサーチ結果を踏まえて仕様変更できるようにバッファを組んでもらったり、スクラムの場合、プロダクトバックログの優先度を決めていくリサーチを数ヶ月に1回行い、それを詳細化していく短いスプリント内でもクイックに検証できるリサーチ体制をつくるといった感じです。プロダクト開発の手法やプロセスを理解し、リサーチのオペレーションを計画したり、ときには開発チームにがっつりコミットし柔軟に対応していくことが求められるかもしれません。メルペイではチームによって開発プロセスが異なっており、アジャイル的だったりウォーターフォール的だったりしますが、どちらにも対応できるように毎週曜日固定でリサーチの日をつくってあらかじめ枠を用意しています。そのことについては以前noteに書きましたのでご参照ください。
組織体制のデザイン
ここはまだ挑戦している段階であくまで仮説ですが、一貫した体験をデザインするためには組織体制のデザインが必要になるのではないかと思っています。例えばマーケティング部署が担うことが多いマーケティングリサーチは売るためのリサーチ、UXリサーチは作るためのリサーチと分けることもできますが、「売る」、つまり認知のところも「企業やサービスとのインタラクションのすべての側面」という定義に沿うとUXデザインに包摂されると思います。そうだとすると、マーケティングの部署とどう協働するかは非常に重要です。また、データアナリストは定量データ、UXリサーチャーは定性データを扱う職種として部門が分かれていることもあります(実際にはUXリサーチャーも定量も扱います)が、定性と定量は補完関係にありますし、実は同じチームでも面白い取り組みが出来るかもしれません。実際、海外のUXリサーチの求人では定性定量どちらも高度な専門性を求めていたり、定性定量それぞれのプロフェッショナルがワンチームになっているものをたまに見かけます。チーム体制や組織図をドラスティックに変えずとも、部署間のコミュニケーションが円滑にいくようにハブになって動くだけでも一貫した体験に一歩近づけるかもしれません。このように、段階に応じてリサーチの対象やデザインするものの抽象度が高くなっていきます。
以上、2020年2月時点での私の中でのUXリサーチの定義でした。現場で実践していく中で考えや解釈が変わったら、またアップデートしていきたいと思います。