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嗅覚障害に立ち向かう〜ネバーギブアップ〜

体を壊すといろんなことに気づけるなぁと、壊す度に思う。
30代前半の厄年で左耳が難聴になった。発症した時はそんなに深刻に考えていなかった。すぐ治ると甘くみていたから、突発性難聴が回復できる48時間という時間がとっくに過ぎていたことと『一度失った聴力は回復しない』というネット記事を見て絶望感に打ちのめされたのを覚えている。
myuuRyの最後にリリースしたアルバムのレコーディング中だった。

テレビの砂嵐のごとく耳鳴りが365日頭の中に鳴っていて、聞こえていた音が聞こえなくなってることを思い知らされる毎日。
週一で通っていた耳鼻科の聴力検査をする度、自分が故障品になってしまったことを実感し、帰り道は泣きながら帰っていた。

「左耳が難聴になったら右は絶対ならないから」
今思えば、お医者さんの慰めの言葉だったのかもしれない。
しかしそれを間に受けたバカな私は、度々体に鞭を打ち、不摂生を繰り返し、そして30代後半の厄年で右耳も難聴にさせるのだった。

さすがに堪えた。
その後、40歳ぐらいの時にとても苦しい出来事があったのだけれど、毎日泣いていたその時期ですら、「いや、右耳まで難聴になった時期の方が辛かったわ」と思うほど、当時は本当にきつかった。

冒頭からなかなかヘヴィーな内容で申し訳ない。
いや、『辛かった話』をしたかったわけではなく、今回私が伝えたいのは、体を壊したことで得たいくつかの気づきが、その後の人生を変えるレベルでとても重要なものになるということです。

30代前半での難聴発症、30代後半での難聴発症、このタイミングで私はありとあらゆる東洋医学に目覚め、ほとんど全部と言っていいほどの治療を試した。後半の時は、シェフの旦那氏(当時は彼氏)の協力も得て、マクロビ食事療法を半年間試してみた。結果トータルで15キロ痩せた(当時太ってた)しかし、筋トレなどを一切やっていなかったため、ただガリガリになってしまい、それはそれで周囲からとても心配されてしまったので、その後筋トレを学んだ。ボクササイズにも通い、体重は5キロくらい戻ったけど筋肉がついたおかげで、周囲から心配されることはなくなった。
その後、ダイエットアドバイザーという資格を取るのだが、その冒頭でも、
『ダイエット=痩せて綺麗なる』ではなく、『ダイエット=健康になる』という意味だと載っていた。
本当にその通りで、難聴は治らなかったけど、そのほかのトータル的な体のバランスが変わって結果的にとても健康になった。
健康になること、体のトータル的なバランスを整えることが歌にも影響を与えることを深く実感し、そこからボイトレ法も変わった。
自分の中の節目だと感じたので、voice salon albaとサロン名を変えたのもその時期。また、人との関わり方も変わったと思う。必要なもの、不要なものの仕分けをし、生活はそれまでよりも派手さはなくなったけれど、自分の技術を磨いたり、研究したり、感性をアウトプットしたり、そんなことをして毎日を過ごすようになった。

難聴はとても苦しい経験だったけれどきっと神様が、『そうでもしなければ気づけない、変われないなにか』を強いメッセージとして与えてくれたんだろうなぁと今では思える。

体を壊す、ということは、かなり強めのリセットボタンが押されるタイミングなのだろうな。

今まさにひさしぶりにリセットボタンを押されている。
先週コロナにかかってしまい、ある日突然嗅覚が0になった。
「フッ」と誰かが息を吹きかけて、鼻咽頭の奥に添えられた蝋燭の火が消えてしまった、みたいな感じ。
難聴の私としては、『一度壊れた神経は回復しない』と知ってる分、あの時の『絶対に治らない感覚』が襲ってきて、恐怖感と孤独感で死にそうになっていた。嗅覚以外にも、飛行機の急下降時に頭が押しつぶされるほど痛くなる感覚が毎日続いていて、難聴の耳鳴りとはまた種類の違う、今にも爆発しそうな種類の耳鳴り音が頭中で響いていた。
当然のことながらメンタルも崩壊。数日間はまさに地獄だったなぁ。

月曜日に最寄りの耳鼻科に行くのが待てなかった私は、日曜日に空いている病院を検索しつづけ、たまたま空いていた病院が六本木、麻布エリア。
苦手な地区ではあったし、体力的にたどり着くか不安だったけど、家で眠れるほど頭の破裂感は落ち着いてなかったので、病院に行くことを決め、予約せずに行ったら待ち時間が3時間と言われた(笑)
「嘘でしょ」
と思ったけど、苦しい思いをまでしてせっかく来ておいて、なにも薬をもらわずに帰るのはあまりにも愚かすぎる、と思ったので3時間潰すことを決めた。しかし、馴染みのなさすぎるエリアと、すれ違うリア充(に見える)富裕層のファミリーの空気感に、たった一人でこの場所で、匂いを感じられない女が3時間彷徨っているという事実が度々目眩を引き起こさせた。
切実にどうやって時間をつぶしたらいいかわからず、我らが蔦屋書店へ駆け込んだ。迷いに迷った挙句、平野啓一郎の「ある男」という小説を購入。誕生日ギフトでいただいたスタバクーポンで、新作のフラペチーノを購入。無臭のそれをゆっくり飲みながら、店内で読書をスタートすることにした。

『結婚した男が実はまったくの別人だった』
という、なんとも言えない暗さが滲み出ている小説だった。読売文学賞受賞していて映画化されている。まぁ、その時の私としては、どんな内容でもよかった。ただ、この街の空気にできるだけ触れることなく3時間潰すことができれば。

そんなこんなで病院で薬をもらうことに成功し、少し残っていた鼻の炎症をとりつつ、嗅覚障害に良しとされている当帰芍薬散とビタミン剤で様子を見ることになった。
ただその時に、
「聴力の検査もしよう」
と先生に言われてしまい、検査恐怖症の私は、
「え、いや、いまぜんっぜん聞こえないんで。してもなんも聞こえないっすよ(なぜか嘲るような笑い)」
と断固拒否したのだけど、無理矢理(嘘)連れて行かれて、狭い検査部屋に放り込まれた。
普通の人からしたらどうってことない聴力検査だと思うけど、私にとってはメンタルの死活問題。ちょっと汗もかいてたし。
看護婦さんにも難聴ということと、死ぬほどの耳鳴りが鳴ってると伝えていたはずなのに、あまりにも私がボタンを押さないものだから途中ドアを開けて、
「耳鳴り今もなってます〜?」
と聞いてくる始末。
だから検査しても意味ないって、と半ば投げやりになりながら検査再開。すると左から聞こえるはずのピーピー音が頭のてっぺんから聞こえたり、右上の頭蓋骨、右耳から聞こえたりといろいろ場所移動して聞こえ出してこれには驚いた。
終了後、看護婦さんに「いろんな位置から聞こえてくる感じの検査なんですね」と聞いたら、
「え?右は右、左は左からしか流してませんよ?」
と言われて、あぁ、そうか私の脳の仕様が普通の人のそれと大きく変わっていたんだと知ることができた。これは結構面白い体験だった。
もし、この記事を難聴専門の先生読んでくださる機会があるならば、この現象の理由を教えてもらいたい。
ま、そんなこんなで、わかりきった聴力検査は終了。
予想通り結果は悪かった。
「この辺りが通常の聞こえレベルなので、もし聞き返すことなど多くなってるなら補聴器もありますので…」
と言われた。
「いや、もう難聴は慣れてるんで大丈夫です」
と返せるくらいには、私の中で難聴は自分の個性になっているのかもなと思ったりした。


嗅覚障害について毎日調べた。そしていろんな迷いも生じた。
情報がありすぎるのも考えものだなぁと思ったりしながら、自分の直感に従うことをじょじょに取り戻していった期間だった。それで気づいたけど、自分の直感と会話するのをしばらく忘れていたなぁと。

いろいろ調べる中で、どうやら嗅覚の神経は皮膚のように再生するのだと。そしてそれはだいたい4週間くらいの周期だそうだ。嗅覚障害を患った人が匂いを取り戻すまで、2週間〜1ヶ月くらいが平均的に多いみたいなので、そういうことなのかなと。
また、コロナウィルスによる嗅覚障害は、神経そのものを傷つけるのではなく、細胞がおかしくなっちゃう(語彙力)ことで生じるみたいだということ。難聴とはまた違う感じなのだなぁと少しホッとした。

病院から薬をもらったからあとは養生するだけ、なのにそれができない。少しでも早く治るためのことを試したい、と思ってしまう。
嗅覚障害や味覚障害には、ステロイド点鼻薬以外に、当帰芍薬散がもっとも効果的らしいのだが、そのほか、亜鉛とビタミン12も良いらいしい。
そもそもビタミン剤は6種類くらい飲んでいたのに、ここに亜鉛とビタミン12が加わった。

飛行機の急下降状態だった頭は、近所の耳鼻科に駆け込み(最初に行った病院)、鼓膜の引っ込みを改善するやつ(語彙力)をリクエストしてやってもらったら治った。先生は、
「これくらいのへこみだったらあんまり効果ないと思うけど」
と言っていたけど、やはり自分の体のことは自分が一番知ってるのだ。空気を送り込んでもらったら耳の中でゴボゴボゴボと動いたので、自分でも「おお」と思わず言ってしまったのだけど、先生も、
「あ、ほんとだね、ちゃんとへこみとれたね」
と言っていた。
聞こえづらくなっていた音も改善され、状態は良くなった。しかし嗅覚は変化なし。

そんな昨日、歩きながら奇跡的な出会いをした。
経絡按摩と鍼の先生だった。どれだけ奇跡的だったかは割愛(そこ書こうよ!)。とにかくいくつかのミラクルが重なり、先生の施術を受けることができ、先生からも「ご縁ですねぇ」とお言葉をいただくくらいは奇跡。
施術後帰宅すると、今までずっと動かなかった右側の耳の鼓膜がボコッと動き、顎の周囲が緩まって、動かすとガクンガクンと音がしだした。
思わず「おお!」って声が出るレベルで驚いた。
そして今日、羽が生えたかのごとく体が軽い。ともない心もここ数日の中で一番元気な状態に。
そして、なんとキムチの蓋をあけたら1秒だけ香るという状態に(今まで無臭だったので大きな一歩)感動した。
体全体のバランスを整えることで治癒力を引き出し治りやすくする、という施術。鍼自体はものの5分くらい。
なのに、今まで受けてきた鍼治療の中で一番効果を感じた。
6月いっぱいは週一で通ってみようと思う。
体がどういう変化を遂げるか楽しみになってきた。
そう、この、楽しみになってきた、というマインドが蘇ってきたことが嬉しい。心も元気になる施術っていうのがつまるところ、整体全般における正解なのだろうなぁと思う。

『絶対に治らない感覚』が今はない。








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