【短歌&エッセイ】また会えました
テキスト・短歌/イトウマ
音楽に出会ったきっかけは中学1年の終わりか2年の始めくらいにラジオで流れたSEKAI NO OWARIの『虹色の戦争』という曲を聴いたことがきっかけだった。それから10年以上が経ち、たくさんの音楽に出会い、たくさんの音楽を聴いた。その中で聴かなくなった音楽もたくさんある。中学生の頃から、まだ世間では知られていない音楽を探すことも好きだった私は本当にたくさんの種類の音楽を聴いていたと思う。新しい音楽に出会うたびに少しずつ音楽の趣味は変わっていった。
2015年高校2年生の夏、人生ではじめてひとりで東京に行った。いわゆる"遠征"と言われるやつだ。観に行った音楽ライブは、とあるラジオ番組が主催する10代のアーティストを発掘するオーディションライブの最終決戦。お目当てはまだ高校生だったリーガルリリーというバンド。
私の住む地元から名古屋駅に行き、名古屋駅から新幹線に乗り東京駅に向かう。そこから更に、京葉線に乗り新木場へ。会場は新木場スタジオコースト。会場の大きさに驚き、緊張しながらも会場付近を歩く。会場の周りには、ライブを主催しているラジオ番組のリスナーが多くいた。ほとんどが同じ10代でなんだかそわそわした。定時になりライブは始まった。そのラジオ番組のMCが目の前にいることに興奮しながら夢中になってオーディションライブを観ていた。次々と10代のアーティストが登場し圧倒的な熱量の演奏が続く中、お目当てのリーガルリリーの出番がきた。鋭くて、爆発的で、繊細で、まっすぐ睨みつけるようなかっこよさがあった。オーディションライブのため披露されたのは二曲のみだったが、とても良い時間だった。リーガルリリーの演奏が終わってから、物販で自主制作版のCDを買った。宿泊はせず終電で帰る予定だった私は、このライブを最後まで観られず夕方くらいに会場を出た。オーディションライブの結果は新幹線の中で確認した。リーガルリリーは大賞ではなかったものの、審査員特別賞を獲っていた。
その後、リーガルリリーは何度か全国ツアーを行っており、私の地元である愛知県でもライブがあった。はじめは小さなライブハウスだったが2年ほど経てばキャパ250人くらいのライブハウスになっていた。この時が2018年、私が大学2年生のとき。そして、このライブを機になぜか私はリーガルリリーのライブに行かなくなっていた。特に深い理由はなく、新曲がリリースされればチェックはしたし、楽曲は新しい曲も昔の曲も普段からよく聴いていた。ただ、きっと私は色んな音楽に触れ、色んなライブを観て、このときは違うバンドに夢中になっていたのだと思う。「なんとなく行かなくなる」なんてものはよくある話だと思う。
それから月日は経ち、昨年2023年5月「森、道、市場」という愛知県で有名な音楽フェスに行くことになった。この音楽フェスに参加するのは初めてだったが、ずっと気になっていた音楽フェスだったこともあり当日をとても楽しみにしていた。この音楽フェスにリーガルリリーは出演しており、ライブをしばらく観ていなかったけれど音源はずっと聴いていたので、迷わず観ることにした。朝から何組ものアーティストを観て昼過ぎになったころリーガルリリーのライブの時間になった。5年ぶりに観たリーガルリリーはあの頃の記憶と全く違っていた。いや、芯の部分は変わっていないのだけど、あの頃よりも、いかつくて、轟音で、ぶん殴られるようなかっこよさと美しさのあるバンドになっていた。衝撃だった。私は完全に撃ち抜かれた。
「森、道、市場」が終わった次の日、私はリーガルリリーの全国ツアーの愛知公演を予約した。リーガルリリーをどうしてもまた観たくて、迷うことなく申し込んだ。数日後、無事当選のメールが届いて、またリーガルリリーを観れる事が決まった。今のリーガルリリーのライブを2時間観れることがとにかく嬉しかった。
5年ぶりに観たリーガルリリーのワンマンライブは、本当にたまらなかった。大切なものを守るような強さと、私はここにいるんだという証明と、ただ音楽が好きなんだという気持ちが大きな塊になってぶつけられているようなライブだった。3つの楽器と歌声は大きな音で堂々と響き、ただそのことだけがかっこいい2時間だった。リーガルリリーに出会ったあの曲も、あの頃夢中になって聴いた曲も、ライブに行かなかった時期に出会った曲も、最新の曲も、全部がこの場所にあった。高校生のはじめて遠征をした私から、今の私までの全ての瞬間が繋がった気がした。8年分のあらゆる出来事やシーンがリーガルリリーの轟音の中で断片的に蘇った気がした。圧巻のステージだった。とにかくすごかった。唖然としてしまう圧倒的なかっこよさ、美しさだった。
リーガルリリーに出会ったのが8年前、最後にライブを観たのが5年前。また会えたことが、また夢中になってライブを観ている事がとても嬉しかった。リーガルリリーも私もあの頃と全く違う何者かになってしまった気もするし、何も変わっていない気もした。
バンドは本当に脆くて儚いものだ。8年の時を経てまた会えたことがこんなにも嬉しい。高校生のころに好きだったバンドが、改めて今好きなバンドになることはこんなにも嬉しい。あの頃のリーガルリリーに高校生の私が出会えたから、今のリーガルリリーに25歳の私で出会えたから、今も大好きなバンドなんだと思う。
私もリーガルリリーもこの先、どう変化したってきっと好きなバンドで、また何度でも会えるのだと思う。