【短歌&エッセイ】最高のラブソング
テキスト・短歌/イトウマ
「さよなら、また今度ね」というバンドがすごく好きだ。何組かいる自分の人生に影響を与えたバンドの中で、ライブを生で観る前に解散してしまった唯一のバンドである。
とってもヘンテコなバンドであるが、このバンドの歌詞はいつ聴いたって惚れ惚れする。私の言葉の表現の基盤になっていると言っても過言ではないと思う。短歌をつくったり文章を書くことに迷ったときに、初心に立ち返り大切なことを思い出すために、このバンドを聴く。
「さよなら、また今度ね」に出会ったのは確か、中学生の時だった。日曜日の朝に放送されていた音楽番組「JAPAN COUNTDOWN」のゲストとして登場していたことがきっかけで知った。CDリリースのタイミングで、インタビューと同時に流れていたミュージックビデオは真っ白の空間でメンバーの4人がへにょへにょしながら演奏をしていた。おまけにドラマーは変な被り物をしていた。はじめの印象はサブカルチックで突飛で変なバンドだと思った。が、やけにポップなメロディと演奏するメンバーの泥臭くて等身大な姿が気になって自宅のパソコンを開いてYouTubeで「さよなら、また今度ね」と調べた。どうやらテレビで流れていたのは『僕あたしあなた君』という曲のミュージックビデオだった。改めて聴いてもやっぱり変な曲で歌詞もかなりヘンテコだった。少なくとも中学生の私には、歌詞の全ては理解できなかった。それでも、なんとなく、バンドの持つ(当時の私には言語化できない)魅力に惹かれて「さよなら、また今度ね」は私の好きなバンドのひとつとなった。
当時、「さよなら、また今度ね」が対バンツアーを行うと発表があった。名古屋の対バン相手は「忘れらんねえよ」と「indigo la End」だった。とても行きたかったが、高校一年生だった私はライブハウスに行き慣れていなかった事やお金の面などの理由で行くのをやめてしまった。その年の12月に「さよならまた今度ね」は活動休止、その後は活動再開することはなく解散となってしまった。好きなバンドの中で唯一、ライブを観ることができなかったバンドなのである。いまだに少しだけ後悔している。「さよなら、また今度ね」に今もつよく恋焦がれている理由のひとつはライブに行けなかったことかもしれない。
どの曲も本当に素晴らしく大好きだが、中でも『僕あたしあなた君』『輝くサラダ』『信号の奴』『夕方とカミナリ』の4曲が好きだ。特に『僕あたしあなた君』はいま改めて聴くと本当にびっくりする歌詞である。本当にめちゃくちゃな歌詞ではあるが、私が"あなた"をいかに好きか、ただ色んな角度から言い表しているのである。オーロラの綺麗さに例えたり、恥ずかしいことをしてみたり、大きな声で叫んだり、あの手この手であなたへの愛を表現しているのである。ある時からこの曲以上に真っ直ぐな"ラブソング"は存在しないんじゃないか、と思うようになった。ただ"あなた"を好きだと歌うこと。めちゃくちゃな歌詞だけど、好きだということを色んな方法で伝えるこの曲は「あなたへの讃歌」および「あなたを好きでいる私への讃歌」のように思える。「私があなたを好きでいられるこの世界への賛歌」かもしれない。私はこの曲を最高のラブソングだと思っている。
私は短歌を日々つくっている。もちろん迷うことやうまくつくれないこともたくさんある。そんなときに『僕あたしあなた君』を聴くと、「こんなに真っ直ぐでいいんだ」「こんなに自由でいいんだ」「無理に難しいことをしなくてもいいんだ」と思える。難しいことを表現しなくても「あなたを好きだ」ということをひたすら書けば、ひとつの作品になるんだと気付かされる。この曲を聴くと表現の根本に戻れる気がする。
会えなかった「さよなら、また今度ね」にいつか会えたらいいなと思う。私は短歌をつくり、文章を書き、言葉を並べる。そんな日々の中でまたいつか会えたらいいなと思う。色んな感情を、歪でもヘンテコでも真摯に伝えていたら、素直に表現をしていたら、いつかどこかに繋がると思っている。その道筋で「さよなら、また今度ね」に会えたらいいなと思う。