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わからないままにすすめ。

おもしろかった。

「家族だから愛したんじゃなくて、
愛したのが家族だった」

を、やっとぜんぶ観た。
2024年、NHKで放映されていたドラマ。
今まで観たドラマの中で、すきなドラマ
3つの指に入りそう。

実在する、家族のお話をドラマにしたもの。
主役は七実という女の子。河合優実という
俳優さん。
ダウン症の弟が草太。実際にダウン症である、
吉田葵という俳優さん。
お母さんが坂井真紀。
お父さんが錦戸亮。
おばあちゃんが美保純。

障がいを持っている人がドラマに出演すると、
その人中心の話になりがちだが、
ここに出てくる草太くんは、
ただの、家族の一員。
最初から最後までずっと。
吉田葵という俳優さん、ほんとうに演技、
というか動作や表情、話し方がすてきで、
魅了された。
ドラマの中で、家族にとって、
彼はべつに、特別な存在ではない。

この家族には、障がいとか、介護とか、
死とか、いろんな状況が、なだれみたいに
おそいかってくるんだけど、
それを簡単な、感動ヒューマンハートフル
ストーリーにして、お涙ちょうだい話に
していない。
観て、泣くこともほとんどなかった。
でも、観終わったとき、
ずしん、と心の底に溜まったものがあった。


障がいのある子どもに関わる仕事をしているが、自分の家族周りに、表立った障がいを
抱えている人がいない。
まあ、居るとすれば、わたしか。
わたしには、ナルコレプシーという
睡眠障害があるので。


支援計画を立てるために、子どもたちの
お父さんやお母さんと話す。
自分の子どもに障がいがある、というひとの
きもちがわかるのか、と聞かれたら
わたしはたぶんわかっていない。

ずっと、考え続けている。
しかし、ほんとうのところで、
その親のきもちがわかることはたぶん
この先も、ずっとない。

人にはいろんな立場、がある。
介護をすることになったり、
障がいをもつ子がうまれたり、
自分が障がい者になったり、
子どもが学校に行かなくなったり、
治らない病気になったり。
子どもを、小さなうちに亡くすとか
親を亡くすとか。
家族が失踪するとか。
子どもが欲しいのにできないとかも。

ほんとうにそれを経験したひとだけが
わかるきもちがあると思う。

でも、それを自分が経験していなくても、
そのひとたちと関わる仕事がある。

話をする。
わかりたい。
わからない。
実感としてわからない。
わかってたまるか、と、思われているかも
しれない。
お前なんかに、何がわかるって言うんだよ
って、思われているかもしれない。

わからなくていい、という事もわかっている。
わからないままにすすめ、とも思う。
親のきもちをわかってあげることが
わたしたちの仕事ではない。
暮らしやすくなる方法を伝えたり、
一緒に考えることが、仕事だとわかっている。
でも。
それには、想像力、がいるんだ。

こわい。

と、思いながら、話すときもある。
最大限寄り添いたいきもちでいる。
絶望しているお母さんを前に、なんて
言ってあげたらいいかわからない。
わかったような顔をするな。
と、自分で自分を責めるきもちにもなる。
わたしはまだ、プロ、とは違うのだろう。

息子が学校に行かなくなった、ということ
だけが、子どもを育てていて、わたしが
初めてマイノリティを実感した出来事だった。
学校に行かない子どもがいる
という親のきもちを、その段階段階で、
全て経験したような気がする。
だから、その立場においては、
実感を伴って、同じ立場のひとに
寄り添うことができるかもしれない。

「もう学校に、行かなくていいよ」

と、息子に言葉をかけたときのことは
忘れられなくて、
今、見えない壁を、ばりーん、と割ったぞ。
という感覚があった。

そうしてわたしはマイノリティ側に
立ったわけだが、

やっと、実感を持って、
そっち側のひとのきもちがわかるのか。

という安堵に似たきもちになった。
おかしなもんで。

仕事場でお預かりしている子で、
明らかに大変な障がいがあり、おうちでも
大変なことがあるだろうと思って、
面談のときに、

今困っていることや、こうなってほしいとか、
ありますか

とか聞くと、

いや、別に、困っていることはそんなに
なくて、大丈夫です

と言われることがある。
え。そうなん?
と思ったりもするが、
実は、その子がどのような子だとしても、
家庭が安心できる場所で、家族が自分を
ありのまま自然に受け入れてくれていたら、
その子は空気のように、ただ、家族の一員
としてその場にいるのかもしれない。
それが一番、理想的な姿だ。

このダウン症の草太くんのように、
家族みんながいつも、その子に救われて
いる可能性だってある。

ひとと話をするとき、
わたしに見えていることが全て
「ほんとうのこと」ではない、
と、心にピン留めしながら、いつも
話をしたい、と思っている。


でも、とにかく、このドラマには、偽りない
「ほんとうのこと」
が詰まっていますので、ぜひご覧ください。



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