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書評「君が見たのは誰の夢?」

こんばんは。Mickey★です。

4月は、忙し過ぎて、完全に失念していたのですが、森先生のWWシリーズの新刊が出ていました。

森先生というと、ミステリー小説のイメージが強いのかもしれませんが、色々なジャンルを発表されており、WWシリーズは、Wシリーズの続編でSF作品となっています。
先日、発売された「SF超入門」の本でも、Wシリーズが紹介されていました。
一応、時系列は、ありますが、森先生は曰く「どこから読んでも良い」とのことですので、この本から読んでも十分に楽しめると思います!

因みに森先生の作品を例えるのであれば、スルメといったところでしょうか?
昔は、分からなかったことが読み返すことによって、理解が深まったり、新たな気付きを得られるので、新刊を読んだ後に他のシリーズを読み返す・・・ということが、よくあります。
だいたいの本が一度、読んだら、ほとんど読み返さない中で、3回くらい読んでいる話もあります。
森先生の小説の特徴として、テーマや仮の答えが提示されるものの、確実な答えはないので、読者が考える余白があります。確実な答えが欲しい人には、不向きですが、物事の視野や視点、考え方を取り入れたりするのが好きな人は、オススメします。
そして、新作が出て5年とか10年の長い期間が経過して、パズルピースが埋められていく感覚と答え合わせが楽しめるので、こういう娯楽が好きな人もオススメします。

この本をオススメしたい人


1.技術進化で人間はどう変化するかを考えたい人
2.新しい概念や思考に触れたい人
3.SFが好きな人

この話のあらすじ

楽器職人のグアトと技師のロジは、ドイツで暮らしていたが、ロジは体調を崩し、検査を受けたところ、不具合が見つかった。
詳しく調べるために、ロジはグアトと共に日本へ帰国する。
検査の結果、ロジは、未知の新種ウィルスに感染していることが発覚する。
そして、その検査データの情報は、何者かに奪われてしまう。
同時期にバーチャルに移行するために服毒自殺を図ったケン・ヨウの遺体からも同種のウイルスが検出された。
このウイルスによる人体への影響を調べるために有識者であるスズコという研究者が現れる。スズコは、ロジの姉と名乗るが・・・


一人の天才の創造する世界における人間の存在とは?

今作では、コンピュータ技術領域における天才マガタ・シキが登場します。
マガタ・シキは、私の考える天才の概念を大きく覆した存在で、多くを語ることは無いものの、その一言、一言が大きな意味があり、重いです。
彼女にとっては、人の思考操作や先々を見通した行動を取ることは造作もなく、過去作『ジグβは神ですか』では、彼女を神と崇める男に対して、世話人の女性に「下の海岸の掃除をお願い」と言って去った後、男が海岸に身を投げたので、そのことを予期して発したというところでゾッとする存在として描かれています。

主人公のグアトとマガタ・シキが会話するシーンがあるのですが、かなり衝撃的な内容となっています。
人類の存続する価値については、生きることに価値があるのではなく、考えることに価値があると語られています。
マガタ・シキが登場する作品の中で、Gシリーズでは、マガタ・シキ自体は直接的には関与しておらず、マガタ・シキの信者が起こした事件が続くのですが、それすらもマガタ・シキが人を操って、何かの実験をしているように垣間見えてしまい、この作品を読んでいる時は、『人類は神による壮大な実験なのではないか?』と考えずにはいられず、一部の優秀な人類を誕生させるために残りの80~90%は存在しているように感じられました。
ただ、生きていることに価値があると思わせるために現在の社会システムでは、生きている人間は平等という人権の考え方で成り立っているものと
グアトがマガタ・シキに問うシーンがあり、私もこのことには、疑問を持っていて、優秀な人と劣る人が居る中で、劣る人は何のために居るんだろうと考えてしまうんですよね。確かに、全員が新しいモノを生み出せる訳でなく、指示されたことをやることが好きな人もいるけど、人に言われたことを達成することに何の意味があるのか、本人がそのことに気付いていないんだろうな、と思うので、普通の自然社会では、こういった種はすぐに淘汰されてしまうハズなので、もやもやとしたものが自分の中で渦巻いているのを感じています。(そういう自分も気付いていない部分があると思いつつ・・・)
ただ、この考えも資本主義社会においての考えがベースとなっているので、人工知能の発達により、資本主義社会ではなく新しい社会システムが創られれば、新たな価値観が生まれるのではないかと期待します。

森先生の描く近未来では、人が肉体を捨てて、バーチャルの中で生きることを選択できるようになっていますが、こないだ、Youtubeで落合陽一さんが過去の作品(アート、小説など)は、生きている時にしか描かれていないけど、AIにその人の思考パターンを覚え込ませれば、死んだ後に、それっぽい作品を生み出すことが出来るという話をされていました。
バーチャルに人間の意識を完全に移行できれば、肉体が死んだとしても永久的に作品は、生み出されると思いますが、オリジナルの意識をAIに学習させて生み出される作品は、その人の人生が終わったところからしか、生み出されないので、コピーでしかないのではないか?と思いました。
オリジナルが死んだ後に起きたことを、その人がどのように感じるかを予測して、人工知能が新しい要素を加えて学習できるようになれば、その人が死んだ後も半永久で作品が新たに生み出される世界が創れるのかもしれません。

なお、本書では、人類の存続をテーマに『共通思考』という概念が提唱されています。かなり難しい概念で、私自身、森先生が言いたかったことを汲み取れているのか、不安ですが、私の解釈は、以下の通りです。

この考えの前提条件として、人類が肉体を捨ててバーチャル世界に移行していることが必須になると思います。
おそらく、体を持たない電子の世界では、個人という感覚が薄れ、何かを成し遂げようとする目的や活動に対して、個人の思考が集まり集合知化されて、そこからプロセスの一部として機能役割を果たすようになるのではないかと思われます。
イメージとしては、人間(集合知)という個体を生存させるために心臓や目、筋肉(個人)等があり、それぞれが役割を持って機能しているという感じなのかなと思われます。

マガタ・シキが登場する百年シリーズで『赤目姫の潮解』という作品がありますが、7年くらい前に読んで、全然、意味が分かりませんでした。
ただ、今、思い起こすと、おそらく、この共通思考となる前後の世界の話のように感じました。
そのため、もう一回、再読してみようと思います。

因みにグアトとロジは、本作で結婚しており、子どもも誕生するという大きな転機を迎えており、そういった点でも心がざわつきました。
小説で『濃厚接触』って表現されていたのですが、やっぱり、そういう意味だよね?と心の中で頷いてしまいました。
また、ロジの出生については、描かれていますが、未だ、グアトの出生は描かれていません。でも、思考の仕方や「あ、そう」という口癖から犀川先生の子孫なのではないかと、勝手に予測しています。


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