『授業見合い隊』で働き方改革 ~1人1授業の代替案として~
はじめに
先生方の学校では、資質向上のために「1人1授業」というものを行っていますか?
ぼくは、本記事を書いている2024年5月現在でもう14年ほど教員をしていますが、その経験の中で言えば、ほとんどの学校でこの1人1授業という取り組みが行われていました。
上記にあるように、教員は絶えず研究を修養に励むことを求められており、その一環として、校内での1人1授業というものが定着していった背景があるものと考えます。
しかし、現状ではこの取り組みはデメリットが大きいのではないかとぼくは考えています。本記事では、そのデメリットを整理した上で、1人1授業の代替案について提案したいと思います。
1人1授業のデメリット
まずは、1人1授業のデメリットを指摘しておきます。ぼくの考えでは、3つほどあります。1つずつ考察していきます。
① 指導案作成の負担が大きい
指導案作成の負担が大きいことは、現場にいる先生方なら誰しもが共感するところだと思います。もちろん、指導案作成を通して子どもたちの実態をつかみ、教材理解を深め、よりよい授業実践につながるという点は間違いないと思います。しかし今の学校現場で、こうした指導案作成を「勤務時間内に作成し終える」ことはできるのでしょうか?
本記事をお読みの先生方は、ぜひご自身の勤務校での実態を思い出していただきたいと思います。担任であれば、毎日5~6時間の授業があり、放課後も会議等が入ることもあるでしょう。会議等が無くて初めて、日々の授業準備や教材研究ができるのです。
しかし、(語弊を恐れず言うなら)そうした時間を削ってまで「たった1回の授業」のために他の教科や日々の授業のための教材研究の時間を削る必要が本当にあるのかは、疑問を持った方がいいと思います。少なくともぼくは、その1回の授業のために時間を使う余裕は、今の勤務状況ではありません。やるならば「他の授業準備や教材研究を諦める」か「残業する」のどちらかになるでしょう。そしてぼくは、前者は教育者として、後者は労働者として拒否したいと考えます。
よって、指導案作成は原則として無しにしていくべきだと主張します。
② 全員が参観できるわけではない
1人1授業は、研究授業のように他の先生方が全員参観するようなものではありません。日々の授業の中で、その実践を公開するというものです。そのため、参観される先生は非常に限定的になるでしょう。ぼくの経験では、参観者は「管理職」と「校内研担当」に固定されるケースがほとんどです。
公開授業をする側の最大のメリットは、授業について適切なフィードバックを得られることです。しかし、少人数の限られた方からしかフィードバックを得られないとしたら、それはメリットが少ないと言わざるを得ないでしょう。また、そのフィードバックを得る時間も放課後に取るとなれば、さらに先生方の時間を奪うことに繋がります。ビルド&ビルドばかりで、メリットが少ないという現状が、ここからも見えてくるでしょう。
また、せっかく同僚が授業を公開してくれているのに、それを見る機会が無いというのももったいな限りです。学年間、もしくは他の学年と実践を共有することは、校内体制づくりとしても非常にメリットが大きいはずです。にも拘わらず、その機会を逃しているとしたら、これも是正していく必要があると思います。
③ 再現性が低い
公開授業という場は、いわば普段の授業とはちがい「1回限りの準備された授業」です。そのため、普段の授業よりもより準備されたものである可能性が高いです。しかし、ぼくら教員は年間で1000時間もの授業を行います。そのうちの99%は、公開授業のように長時間かけて準備されたものではなく、日々行われている普段の授業です。
例えば、公開授業のための教材研究を1時間やったとしましょう。しかし、ぼくらは毎日5~6時間の授業をやるわけです。では、毎日5~6時間の教材研究の時間を確保できますかと言われれば、それは100%無理ゲーなわけです。よって、年間で行われるほとんどの授業において再現性の低いものとなる可能性が高いと言えます。これも、時間をかけて参観した先生方にとってもメリットが低いとも言え、デメリットだと考えます。
上記した3つの点から、ぼくは「1人1授業」の取り組みは、メリットよりもデメリットが大きいため、もう一度見直す必要があると考えます。では次に、1人1授業に代わる取り組みの代替案について述べていきます。
『授業見合い隊』という代替案について
本記事では『授業見合い隊』という取り組みの提案をしていきます。1人1授業との大きな違いは「普段の授業をする」という点です。これにより、特別な準備をする必要がなく、先生方の負担が増えることを極力抑えることができるというのが大きなメリットです。
もし勤務校にこの取り組みを導入するなら、以下のステップを踏みます。
では、以下に具体的な内容を示していきます。
① 教科やテーマは自由
各先生方は、一定期間準備された授業ではなく、日々行っている授業の中で「この授業だったら参観してもいいよ」というものを決めます。先生によって、専門の教科や力を入れている内容はばらつきがあると思います。なので、校内で一律に教科やテーマを決めることは、ややもするとその先生の力を十分に発揮できなかったり、先生の良さを発見する機会を失ったりする可能性も大きいと考えます。なので、各先生方に「普段の授業の中でも、自分はコレ!」というものを決めてもらうことで、その機会損失を減らすことができ、かつ公開授業のハードルを下げるというねらいがあります。
② 事前の周知
公開授業をするにあたっては、事前に職員に通知しておくのが良いと思います。ほとんどの学校では、週1回程度「職朝」や「終礼」のように、その1週間の予定を全職員で確認する時間が設けられていると思います。その時に「〇月△日の5校時に、算数の授業を行います。お時間ある先生は参観にいらしてください」のように周知しておくのがオススメです。
ちなみに、参観するかどうかや、参観の時間はお任せです。5分ほど覗きに来るだけでもいいと思います。たったそれだけと思うかもしれませんが、なかなか他の教室の授業を5分見る機会はありませんから、これも自己研鑽につながるものと思います。
「自由な参観だと見る人が一人もいないのではないか?」と心配でしたら、校内研の取り組みの一環として「年間で1人3回は授業参観をする」「管理職または校内研主任の中から最低1人は参観する」のような取り決めをしてもいいかもしれません。
③ 普段の授業を見せる
普段の授業なので当然、指導案(略案含む)などの作成もありません。そうすることによって、先生方の負担も軽減でき、他の教科・単元の教材研究の時間をきちんと確保できるようにします。
ただし、参観者からの適切なフィードバックを得るためにも、参観の視点は必要に思います。そこで、事前に「授業の見どころ」や「参観してほしいポイント」などをあらかじめ提示しておくと、さらに効率的かと思います。
④ 授業者へのフィードバック
公開授業をする上で欠かせないのが、適切なフィードバックです。これがないと、ただやって終わり、ということになってしまうからです。
そこで、授業者に向けた感想シート等を用意し、教室の前に置いておくのがおすすめです。すると参観者は、この用紙に感想等を書いて授業者へフィードバックすることができるようになります。下記はその一例です。ここにある「授業者より」の部分に、前述したような授業の見どころや参観してほしいポイント等を授業者が書いておけば、より良いフィードバックにつながるでしょう。
この感想シートはだいたいA4用紙の半分くらいのイメージです。ちょっとしたことでも、授業者にとっての新たな気づきにつながったり、励みになったりするものなので、これをもらうだけでも公開授業をした意義があったと感じるはずです。
また、フィードバックを得るだけならロイロノートのアンケート機能や、Formsなどを使うのもアリだと思います。勤務校の実態に合わせて、柔軟に対応していただけたらと思います。
さいごに
いかがだったでしょうか?
本記事で提案させていただいた『授業見合い隊』は、実際にやられている学校があると聞き、当時ぼくが勤めていた勤務校での実践をもとに提案させていただいています。やってみての感想としては、やはり指導案などがなく普段の授業を公開する方が授業者の負担は減りますし、参観者目線でも自分の実践に活かせるヒントを多く得られたような実感があります。
校内での先生方のスキルアップのための取り組みに「コレが正解」というものはありません。しかし、1人1授業に代わる取り組み案として、こうしたアイデアがあるということを知っておくだけでも非常に有意義だと思います。ぜひご自身の勤務校の実態に合わせた上で、参考にできるところを見つけていただければ幸いです。
ぼくは今回のように働き方改革の文脈で各SNSでも日々発信を続けております。また『定時退勤がちサロン』というオンラインサロンを運営し、2024年5月現在で160名を超える先生方の働き方をサポートさせていただいています。こうした活動内容に興味のある先生は、下記にX(旧Twitter)のリンクを貼り付けておきますので、ぜひお声かけください。
なお、校内研等での講師依頼や取材についても、こちらで受け付けています。よろしくお願いします。