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「指導要録の作成」をラクにする3つ提案について

はじめに

年度末、各学校では「指導要録の作成・印刷・押印」という仕事が待ち構えています。校長先生のゴム印を押し、印鑑を押し、紙で印刷してチェックし、最終的に金庫に眠るというアレです。

では、先生方に質問です。
指導要録を引き継ぎ資料として年度初めや年度途中、もしくは評価の参考にしようなどといった理由で、いちいちカギを借りて金庫から取り出して見るでしょうか?おそらく、ほとんどの先生は「NO」だと思います。開示義務はあるものの、指導要録は基本的に金庫に眠ったままで起きるのは(見直すのは)翌年度の学期末です。しかも、そこに手間ヒマかけても子どもたちの成長にはほとんど寄与しません。それよりも、教材研究を5分した方がよっぽど子どもたちのためになります。

そこで本記事では、指導要録の作成をラクにするために3つの提案したいと思います。学校全体での改革が必要ですが、もし実現すればかなりの時間を生み出すので、「いいな」と思った方はぜひ勤務校へ提案されてみてください。


指導要録は作成しないといけない

指導要録は、毎学期出している通知表とはちがい、作成義務があります。まずは、その法的根拠を押さえましょう。

校長は,その学校に 学する児童等の指導要録(学校教育法施行令第31条に規定する児童等の学習及び健康の状況を記録した書類の原本をいう。)を作成しなければならない

学校教育法施行規則 第12条の3

このように、指導要録は必ず作成しなければならないものとなります。保存年数は、指導に関する事項は5年、学籍に関する事項は20年と定められています。そのため、古い紙の指導要録が保管庫の奥に眠っている場合も多々あります。

ここで、1つ押さえておきたいポイントがあります。
上記の規則を見てみると、文言の一番最初に「校長は,~~」とあります。つまり、法律上、指導要録の作成義務があるのは各学校の校長先生ということになります。
しかし、実際に校長先生が全児童生徒の指導要録を作成しているというところはまずないと思います。これはどういうことなのでしょうか?

ここからはぼくの個人的な法解釈ですが、校長先生1人で数百人いる児童生徒全員分の指導要録を作成するというのは、あまりにも現実的ではありません。そこで、校長先生から各学級担任へ校長の仕事を代わりに引き受けてもらっている、という立て付けになっているのだと思います。

このように、作成者が校長ではなく教員になっているというズレはあるものの、法的には作成義務が学校側に生じているということは理解しておいてください。

 提案1:常体→敬体への変換はしない!

未だに多くの学校で「指導要録の文末は敬体(~です、~ます)ではなく常体(~だ、~である)でなければならない」という風潮が見られるようです。しかし、これは学校文化の中にいつからか根付いてしまった神話にすぎません。実際、前述した学校教育法施行規則を始めとした各種法規の中に「指導要録は必ず常体でなければならない」なんてことは書かれていません。

このように、法的な根拠がないにも関わらず、一部の学校や自治体で「常体でなければならない」という神話が蔓延してしまったことにより、先生方は非常に意味のない仕事に追われることになっているという現状があります。
実際、文科省が出している「統合型校務支援システム導入の手引き」の中で、指導要録の記載については次のように示されています。

自治体によっては、指導要録を常体で記載することをルール付けている場合もありますが、本来、指導要録は学内、または他校との間のみで利用される帳票であり、敬体と常体のいずれで記載されているかは、重要ではありません。

統合型校務支援システム導入の手引き P39

このように、文科省もどちらでもいいと言っています。もし校長先生や自治体から「指導要録は必ず常体でなければならない」と言われたら、上記に示したものを提出して、一考してもらった方がいいかと思います。

 提案2:所見欄は「特記事項なし」!

前述したように、指導要録の作成に時間をかけることは、子どもたちの成長はほとんど寄与しないと考えます。なぜなら、通知表とちがい指導要録は基本的に学校保管の文書であって、開示することはほとんどないからです。保護者から開示請求をされればもちろん開示しますが、かなり稀なケースだと言えます。これは視点を変えるなら、開示義務があるからこそ下手な事は書けない、とも考えられます。
 そこで、特筆すべきことがない場合は『特記事項なし』との記入のみにすることを提案します。この表記のみで問題がないかどうかについては、指導要録に関する以下の通知から考えることができます。

小学校等における総合所見及び指導上参考となる諸事項については,児童生徒の成長の状況を総合的にとらえるため,以下の事項等を文章で記述する。
1 各教科や外国語活動,総合的な学習の時間の学習に関する所見
2 特別活動に関する事実及び所見
3 行動に関する所見
4 児童の特徴・特技,学校内外におけるボランティア活動など社会奉仕,体験活動,表彰を受けた行為や活動,学力について標準化された検査の結果等指導上参考となる諸事項
5 児童の成長の状況にかかわる総合的な所見
記入に際しては,児童の優れている点や長所,進歩の状況などを取上げることに留意する。ただし,児童の努力を要する点などについても,その後の指導において特に配慮を要するものがあれば記入する。                              ※中学校も同様の規定

小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)(平成22年5月11日)

ここでは、最後の文に注目してください。「特に配慮を要するものがあれば記入する」とあります。これは言い換えると「特に配慮を要するものが“ない”場合は、記入しなくてもよい」と解釈できます。

さらに、文科省から出されている別の通知文も見てみます。

3.指導要録の主な改善点について
(5)教師の勤務負担軽減の観点から,【1】「総合所見及び指導上参考となる諸事項」については,要点を箇条書きとするなど,その記載事項を必要最小限にとどめる(以下略)

小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)(平成31年3月29日)

このように、指導要録の作成に関して、文科省は教員の負担軽減の観点から、なるべく簡略化することを推奨していると解釈できます。実際に、こうした根拠をもとに『特記事項なし』という記述のみで指導要録を作成している学校もあります。もしこの文言だけで指導要録の所見を終わらせることができたら、教員の負担はかなり減ります。そして、それは各学校裁量で可能なのです。

 提案3:印刷しない!

指導要領に作成義務があることはすでに述べたとおりですが、それをわざわざ「印刷する」必要はまったくありません。そもそも紙媒体で作成していたのは、紙で作成するしかなかったからです。しかし今は、多くの自治体で校務支援システムが導入されており、電子データでの保存が可能です。というか、すでに行われています。そして文科省も、指導要録の電子化を推進しています。

このような取り組み例について、文科省は指導要録の電子化について次のような文書を出しています。以下、その一部を抜粋します。

指導要録についても校務支援システムを活用した作成に努めるなどの取組を推進いただいているところですが、作成した指導要録の保存については、未だに校務支援システムから出力した用紙に押印したものを原本として保存するといった、従来通りの紙媒体による運用が行われ、電子化の取組が必ずしも十分に進んでいないとの指摘があるところです。
これを踏まえ、各学校の設置者及び学校におかれては、指導要録の原本の電子化を推進していただきますよう改めてお願いいたします。

指導要録の原本の電子保存による校務の情報化の推進について(令和5年4月17日)

ここにはっきりと、紙媒体ではなく電子化による運用を推進していくようにと書かれています。また、そのように電子化に移行した場合のイメージが以下のような図で示されています。

指導要録の原本の電子保存による校務の情報化の推進について(令和5年4月17日)

ここを見ても分かるように、電子化により「印刷」や「押印」といった業務は完全に無くなります。これは大きな働き方改革です。

さいごに

実は、こうした動きについては管理職も知らないことが意外に多いように感じています。ぜひ、今回紹介させていただいた内容がまだ勤務校で取り入れられていないなら、先生方から管理職へ教えてあげて欲しいと思います。
今回記事に書かせていただいたことは、ぼく個人の意見ではなく、文科省が“推奨”していることです。そこを強く押し出せば、無下にされることはないと思います。ぜひ、声をあげてみてください。



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